以下は、記事の抜粋です。
退屈な作業をやりとげようとする意欲の強い人と、途中であきらめてしまう人がいる。彼らの「脳の違い」を明らかにする研究が行われた。ヴァンダービルト大学のマイケル・トレッドウェイが率いる研究チームが『Journal of Neuroscience』に新しく発表した研究論文は、この謎を解明しようとしている。努力と怠慢、仕事と気晴らしの間で、脳において何が起こっているかを表す初めての試みだ。
この研究では、被験者25人に、ボタンを押す簡単な課題、難しい課題のいずれかを選んでもらった。簡単な課題では1ドルの報酬が得られ、難しい課題では1~4.30ドルの報酬が得られる。課題の難度を選択した後で被験者には、報酬は確実に得られるとは限らず、報酬が得られる確率は、低い(12%)、中くらい(50%)、高い(88%)のいずれかであることが告げられた。
課題は30秒ほどのもので、内容は死ぬほど退屈だ。自分の利き手で7秒間に30回ボタンを押すか(こちらが簡単な課題)、あるいは、利き手でないほうの小指で21秒間に100回ボタンを押す(これは難しい課題)。
被験者が退屈しつつも大急ぎでボタンを押す間、研究チームは、PETスキャンを使って被験者の脳の変化をモニタリングした。このPETスキャンは、大脳皮質全体のドーパミン・ニューロンの活性を追跡できるように修正をほどこしたものだ。
研究の結果、ボタンを押すのを途中でやめてしまう人と、たとえ小指が痛くなってもボタンを押し続ける人の違いが明らかになった。左線条体と前頭前皮質腹内側部(ventromedial prefrontal cortex)におけるドーパミン作動性活性が高い被験者のほうが、多くの報酬を得るために努力する意欲が高かったことだ。
今回の研究成果は、多大な努力をそれほど苦労と思わずにできる人と、そうでない人との違いを理解するヒントを与えてくれる。この種の勤勉な人々は、「報酬が得られる可能性」から、ほかの人よりも少しだけ多くの快楽を得ていると思われる。そしてその一方で、自分の内なる「不平家」の声には鈍感なようだ。
元論文のタイトルは、”Dopaminergic Mechanisms of Individual Differences in Human Effort-Based Decision-Making”です(論文をみる)。
以前の記事で、ドーパミンの分解酵素であるCOMTの遺伝子多型によって「迅速かつ柔軟に決定できる能力」が決まるという報告、線条体ドーパミンD2受容体がジャンクフードや薬物に依存する行動において重要であるとする報告、衝動性の強い人は線条体でのドーパミン放出が多いとする報告などを紹介しました。
この論文も良く似ています。退屈な作業をやりとげようとする意欲の強い人は、衝動性が強く、ジャンクフードや薬物に依存しやすいのでしょうか?
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