「コロナ禍のマスク生活で免疫力が低下」はウソ

「コロナ禍のマスク生活で免疫力が低下」はウソ 小児科の発熱外来が今、大混雑している根本原因とは
以下は、記事の抜粋です。


「新型コロナ対策でマスクをつけていたために、子供の免疫力が落ちた」「新型コロナワクチンを接種したから、子供の免疫が低下した」「子供には、もっと風邪をひかせておくべきだった」などという説がまことしやかに広まっています。でも、最初にお伝えしておくと、これは間違いです。今回は、その理由を詳しく説明したいと思います。

「マスク生活で免疫が落ちる」に根拠なし
先日、ある新聞が、現在のインフルエンザの流行は「コロナ禍のマスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちたことが原因だ」と断じ、「専門家は『子供にとって怖いのはコロナよりインフル。心配な人はワクチンを打ってほしい』と話す」と書きました(記事をみる)。この記事は、さまざまな箇所が間違っています。

「マスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちた」というのは、どういう意味でしょうか? インフルエンザに対する抗体を全員が持っていたのに、マスクが習慣になったせいで一斉に減少したということでしょうか? この記事を書いた記者は、実際の抗体検査の結果などの根拠を示していません。インフルエンザが増えた理由が、免疫の低下にあるとは到底いえるはずがないでしょう。

根拠のないうわさのせいで悩む保護者もいる
こうした根拠のないうわさや報道のせいで、不安を抱く保護者の方もいます。先日、診察室で患者さんのお母さんから「新型コロナの波がひどかったときも、子供には風邪などをひかせたほうが免疫がついてよかったのでしょうか?」と相談されましたが、そんなことはありません。

多くの感染症は、小さな頃に発症したほうがリスクが大きいのです。例えば、百日咳は大きな子供や大人がかかってもつらいことが多いのですが、1歳未満の子がかかると入院することが多々あります。生後6カ月未満では生死に関わりますから、この春は厚生労働省がワクチン接種時期を前倒したほど怖い病気です。飛沫(ひまつ)感染、接触感染をするため、気をつけていてもかかるときはかかります。コロナ禍に「こんなに風邪をひかないなんて、いつか子供にしっぺ返しが来る」と言っている人がいましたが、どんな感染症も予防ができて、かからないで済むならかからないほうがいいのです。

また、別のお母さんから「新型コロナワクチンで免疫が下がると聞いて心配です」と相談されたこともあります。これも全く根拠はないので安心してください。もしも本当だとしたら、発熱した子は新型コロナワクチンを受けているはずですね。ところが、外来で私が確認すると接種率は1割弱で、ほとんどの子が受けていません。しかも子供の新型コロナワクチンの接種率は全国平均でわずか2割程度ですから、むしろ現在の感染症の流行の説明がつかなくなります。

今、さまざまな感染症が流行している理由
では、今、さまざまな感染症が流行しているのはなぜでしょうか? それは新型コロナが第5類になって感染対策が緩んだから、そして人流が回復したからです。国内の旅行者も、海外からの旅行者も増えています。当然の成り行きですね。

意外と知らない人が多いようなのですが、ほとんどの感染症は飛沫感染、接触感染します。人流が減り、他人と距離を取り、よく手を洗い、マスクをつけていると伝播しづらいのです。2020〜2022年には新型コロナ対策のために、これらが広く行われました。しかも緊急事態宣言が出たり、保育所や学校、会社などに新型コロナ感染者が相次ぐと休みになることが多々あったため、他の感染症は例年より少なくなったのです。

しかし、現在では人流が再開し、以前ほど気をつけて手を洗わなくなり、マスクを着けなくなったので、感染症にかかる人が増えました。しかも、多くの感染症の患者数は、コロナ禍前よりも増えたわけではありません。2020〜2022年よりも少し増えた、もしくはコロナ禍前と同程度になっただけです。

基本の感染予防策をしっかり行うのが最善の方法
こうして現在の感染症の流行状況を考えると、この3年間に私たちが行っていた感染予防対策は効果的だったことがよくわかります。飛沫感染や接触感染を起こすさまざまな感染症は、本気で対策すればかなり予防できるのです。やはり三密を避ける、手を洗う、マスクをすることは有効だったのです。

そして、感染症にどんどん感染して抗体を高めようとする必要はありません。大勢の人が感染症にかかれば、重症化したり亡くなったりする子供が出てしまいます。何らかの感染症にかかっても必ず抗体価が上がるとは限りません。例え何らかのウイルスに対する抗体価が上がったとしても、重症化したり、合併症が起こったりして苦しんだり、後遺症が残ったり、命を失ったりしたら本末転倒です。ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザb型菌)に感染して細菌性髄膜炎になり、重篤な後遺症が残った場合に「それでも抗体がついたからよかった」と思う人はいないでしょう。しかも、新型コロナのように何回でも感染するウイルス、細菌だってあるのです。


根拠のないデマ、例えば「アビガンやイベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効く」などは本当に迷惑ですし、中には多量に服用して障害の残るヒトもいます。実際、トランプが勧めたヒドロキシクロロキンでは多くの死者も出ました(記事をみる)。SNSの有害性についてはいろいろと言われていますが、このようなデマを軽い気持ちで広めることはその一つだと思います。表現の自由は重要ですが、このように明らかに事実と反するデマを流した場合は、何らかの社会的責任を負わせる必要があるような気がします。

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