抗体-薬物複合体 T-DM1がHER2陽性転移性乳がんのファーストラインでの有効性示す

T-DM1がHER2陽性転移性乳がんのファーストラインでの有効性示す

以下は、記事の抜粋です。


HER2陽性転移性乳がん(mBC)患者のファーストラインとして、抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugates、ADC)のtrastuzumab emtansine(T-DM1)がカペシタビン(Capecitabine)とラパチニブ(Lapatinib)の併用(C+L)に比べ、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが分かった。同剤の無作為化臨床第3相試験「EMILIA」の結果から分かった。6月1日からシカゴで開催されている米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)でK.L.Blackwell氏が報告した。

T-DM1は、HER2を標的とするヒト化モノクローナル抗体トラスツズマブと、細胞障害性を有する化学療法剤DM1を安定性の高いリンカーで結合させたADC。HER2シグナル伝達を阻害し、DM1を直接HER2陽性のがん細胞内部に届けることで、トラスツズマブの腫瘍増殖抑制作用に加え、DM1による腫瘍細胞の微小管重合阻害作用により、抗腫瘍効果を発揮する。

試験は、991例のHER2陽性局所進行or転移性乳がん患者を対象に、T-DM1とC+Lを比較した。T-DM1群(495例)では、3.6mg/kgを3週間毎に投与した。一方、C+L群(496例)では、カペシタビン1000mg/m2を1日2回、14日間連日投与し、その後の1週間休薬を含む3週間を1クールとし、ラパチニブは 1250mg を連日経口投与した。

その結果、無増悪生存期間(PFS)はC+L群の6.4カ月に対し、T-DM1群では9.6カ月で有意にT-DM1群で延長した。1年生存率は、C+L群の77.0%に対し、TDM-1群では84.7%、2年生存率は、C+L群の47.5%に対し、TDM-1群では65.4%だった。

奏効率は、C+L群では30.8%(120例/389例)だったのに対し、TDM-1群では43.6%(173例/397例)で、12.7%の差がみられ、有意にTDM-1群で良好な結果を示した。奏効期間(中央値)は、C+L群の6.5カ月に対し、T-DM1群で12.6カ月だった。患者の申告に基づくQOL評価である症状悪化までの期間も、C+L群の4.6カ月に対し、T-DM1群では7.1カ月で、有意な改善が認められた。

有害事象もTDM-1群の方が少なかった。グレード3以上の有害事象で、T-DM1群で多かったのは血小板数減少、肝機能値上昇、貧血だった。


T-DM1は、上記のようにHER2を分子標的とするヒト化モノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン®)に、強力なチュブリン重合阻害作用をもつDM1という2つの既存薬物を結合させたものです。HER2を過剰発現している乳がん細胞にトラスツズマブが結合し、そのまま取り込まれた複合体が細胞内で分解され、解放されたDM1が細胞分裂をG2からM期で阻害する、というメカニズムでがん細胞の増殖を阻害すると考えられています。

これらの結果から、Blackwell氏は「T-DM1は、カペシタビン+ラパチニブに比べ、有効性の改善を示した」とした上で、「T-DM1は、HER2陽性mBCにおいて、重要な治療選択肢となるべき」との見解を示したと書かれていますし、ディスカッションでも、これまではmBCに対して限られた治療選択肢しかなかったことが指摘され、「T-DM1は、乳がんに立ち向かう治療道具の中で、新たな重要な武器だ」と有用性を強調されたそうです。

がんサポート情報センターには以下のように書かれています。


進行再発乳がんに対して、現在一番効果的とされる治療法は、トラスツズマブとパクリタキセル(タキソール®)の併用療法だが、両方とも週毎の投与が必須で、ハーセプチンの費用は約7万円、タキソールは約4万円。3割負担の保険診療でも月に13万円強にもなる。しかも、これは純粋な治療費のみで、実際の費用としては、他に診察料、採血検査料などが含まれるからもっと大きな負担となる。


DM1は、パクリタキセルの約20倍のチュブリン重合阻害作用をもつ薬物です。価格も20倍とまでは行かないでしょうが、おそらく高価でしょう。良く効くことは間違いなさそうなT-DM1の価格設定が注目されます。

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