慢性心不全の適応で承認された初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬 ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ)

新しい作用機序で心血管イベントを抑制するHFrEF治療薬「ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg」
以下は、記事の抜粋です。


可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬「ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ錠、バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、標準治療を受けている左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者に対して、新しい作用機序で心血管イベントリスクを低減させることが期待されています。

<効能・効果>
本剤は、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)の適応で、2021年6月23日に承認され、9月15日に発売されました。なお、左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していません。

<安全性>
国際共同第III相試験において、副作用は本剤投与群2,519例中367例(14.6%)で報告されました。主な副作用は、低血圧172例(6.8%)、浮動性めまい37例(1.5%)、悪心19例(0.8%)、起立性低血圧、消化不良各14例(0.6%)、疲労11例(0.4%)、頭痛10例(0.4%)などでした。なお、重大な副作用として、低血圧(7.4%)が設定されています。

<患者さんへの指導例>
1. この薬は心臓や血管の機能を調節し、慢性心不全が悪くなるのを抑えます。
2. 血管を拡張させる作用によって、めまい・ふらつきが現れることがあります。高い所での作業、自動車の運転や機械の操作には注意してください。
3. (女性に対して)本剤を服用中および服用終了後一定期間は確実な方法で避妊してください。妊娠を希望する場合は医師に伝え、今後の方針について相談してください。
<Shimo’s eyes>
本剤は、慢性心不全の適応で承認された初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬です。既存のsGC刺激薬としてはリオシグアト(商品名:アデムパス)が肺動脈性肺高血圧症などの適応で承認されています。

慢性心不全の病態では、内皮細胞機能不全による一酸化窒素(NO)産生の低下やsGCの機能不全により、cGMPシグナルの低下が引き起こり、その結果として心筋および血管の機能不全の一因、さらには心不全の悪化に寄与していると考えられます。本剤は、NO受容体であるsGCを直接刺激する作用と、内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用の2つの機序により、心血管系の重要なシグナル伝達経路であるNO-sGC-cGMP経路を活性化して、慢性心不全の進行を抑制します。

第III相試験では、慢性心不全の標準的な治療を受けているHFrEF患者に対して本剤またはプラセボが投与されました。前治療として、β遮断薬、ACE阻害薬またはARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の3剤併用療法を受けていた患者が59.7%を占めていました。結果、本剤群では、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイント発現の相対リスクが10%減少しました。

本剤と既存のsGC刺激薬であるリオシグアトは、降圧作用を増強する恐れがあるため併用禁忌であり、シルデナフィルを含むPDE5阻害薬、一硝酸イソソルビドなどの硝酸剤およびNO供与剤も同様の理由から併用注意となっています。なお、本剤投与前の収縮期血圧が100mmHg未満の患者では過度の血圧低下が起こる恐れがあるため血圧の確認も必要です。

近年、HFrEFに対する新しい治療薬として、HCNチャネル阻害薬のイバブラジン(商品名:コララン)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のサクビトリルバルサルタン(同:エンレスト)、SGLT2阻害薬のダパグリフロジン(同:フォシーガ)などが使用できるようになりました。本剤は既存の治療薬とは異なる作用機序であり、標準治療が効果不十分な患者であっても心血管イベントリスクが低減する可能性があります。


ベルイシグアト(Vericiguat)は、既存のsGC刺激薬であるリオシグアト(Riociguat)とほぼ同じ作用機序のようです。バイエル社の報告によると、リオシグアトは、その優れた薬理作用にもかかわらず、半減期が短く、1日3回の投与が必要なため、他の心血管疾患への適用には限界があるとされています。バイエル社は、構造活性相関を発見し、酸化による代謝を大幅に低下させることができたそうです。その成果が、慢性心不全に使える1日1回のsGC刺激剤であベルイシグアトの発見につながったそうです。これらから考えて、ベルイシグアトも肺高血圧症にも使えそうですが、まだ承認されていません。

リオシグアトの作用機序。15 (a) リオシグアトは、NOに依存しない方法でsGCを直接刺激する。(b) リオシグアトは、分子の結合を安定化させることにより、内因性NOに対してsGCを感作する。ベルイシグアトも作用機序は同じと思われます。

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