以下は、記事の抜粋です。
米国立衛生研究所(NIH)の諮問機関「生物安全保障のための科学諮問委員会」(NSABB)は3月30日、「テロに悪用される恐れがある」として米英科学誌に一部掲載を見合わせるよう求めていた2つの論文について、全面公開を認める勧告を公表した。
WHOの会議が今年2月、全面公開が有益とする見解を示したのを受け、従来の方針を撤回した。論文は近くサイエンス誌とネイチャー誌に掲載され、研究者らが1月に自主的に決めた60日間の研究凍結措置も解除される見通しだ。
論文は、鳥インフルエンザウイルス「H5N1」が変異して実験動物のフェレットで空気感染するようになることを報告したもの。東大医科研の河岡義裕教授と、オランダの研究者がそれぞれ、ネイチャーとサイエンスに投稿したが、同委員会が昨年12月、研究内容の詳細を伏せるよう両誌に異例の勧告をした。
同委員会が30日公表した声明によると、両論文に関しては、テロ悪用の危険性より新型インフルエンザ対策などに役立つ公衆衛生上の利点が大きいと判断した。論文は、鳥インフルエンザが人同士で感染する新型インフルエンザに変化する仕組みを把握するのに役立つ内容で、ワクチンや治療薬の開発にもつながる。
論文のウイルスは、多量に接種しない限りフェレットが死なないなど、危険性が低いと判断された。河岡教授はネイチャーに「委員会の判断は、成果の公衆衛生上の意義をよく理解した結果」とコメントした。
同じニュースですが、Natureの”US biosecurity board revises stance on mutant-flu studies”という記事の内容は、朝日、読売などの日本のマスメディアのものとかなり異なります(記事をみる)。他の欧米メディアの報道も同様です(記事をみる)。
NatureやCIDRAPの記事によると、NSABBは河岡氏の論文については全会一致で発表を勧めたが、オランダの研究者Fouchier氏の場合は12対6という投票結果のため、データ、方法、結論の3つだけの発表が認められることになったそうです。
以前関連記事で紹介したように、Fouchier氏らのグループは、鳥インフルに感染したフェレットから健常なフェレットへ人工的な感染を10回繰り返すことで、空気感染できるウイルスを得、そのゲノムを解析して5箇所の変異を同定したということでした。
河岡氏らの内容はこれまで明らかにされていませんでしたが、H1N1(ブタ)ウイルスのHA(haemagglutinin)タンパク質に数箇所の変異を入れたものを鳥インフル由来のタンパク質とのハイブリッドにすると、哺乳動物でも飛沫感染可能になったという話のようです。このハイブリッド・ウイルスにはフェレット殺傷能力はなく、Fouchier氏らの作成したものよりも毒性は弱いようです。
米政府は前日の3月29日、公共の福祉に役立つ面と悪用により危険を招く面の両方を持つ研究(’dual-use’ research)について申請段階での評価を義務化する制度の導入を発表しました。対象は鳥インフルを含む15種類の病原体と毒素で、これらを扱う研究は申請段階でその危険性を評価されることが義務化されました。この制度の導入を受けてNSABBは鳥インフル論文に対する対応の修正を公表したということのようです。日本版「’dual-use’研究」ルールを導入する必要があると思います。
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