PSA検査によるスクリーニングは前立腺癌死亡を意に減少させるが、全死因死亡への影響はない

PSAで前立腺がん死亡の低下 患者利益めぐり議論も
以下は、記事の抜粋です。


血液中の物質を調べるPSA(前立腺特異抗原)検査で、前立腺がんによる死亡リスクを減らすことができるとの調査結果を、男性約16万人を平均11年間追跡した欧州チームが3月14日、New England Journal of Medicineに発表した。

ただ、他の病気を含めた全体の死亡リスクを減らす効果は見られなかった。前立腺がんは高齢者に多く進行が遅いため、他の病気で死亡することがあるのが一因とみられる。PSA検査で陽性となった後の精密検査は肉体的負担が大きく、患者の利益や全体的な効果をめぐっては今後も議論が続きそうだ。


元論文のタイトルは、”Prostate-Cancer Mortality at 11 Years of Follow-up”です(論文をみる)。

共同通信が配信したタイトルは、PSA検査に基づく前立腺がんスクリーニングにはがん早期発見によるベネフィットがあるという印象を与えます。これは誤りです。

この論文は、欧州8カ国で実施され、登録時50-74歳の182,160例の男性を対象にした巨大な無作為化臨床試験の追加報告です。以前の報告はフォローアップ9年目、今回のものは11年目です。スクリーニング群の男性にはPSA検査に基づくスクリーニングを提供し、コントロール群の男性には提供しませんでした。

その結果、スクリーニング群における前立腺がん死亡は、コントロール群よりも21%減少しました。しかし、全死因死亡率では両群間に有意差は認められませんでした。さらに、前立腺がん死亡を1例予防するには、1,055例にPSA検査によるスクリーニングを行い、前立腺がん37個を発見する必要があることもわかりました。

PSAはProstate Specific Antigenの略で、前立腺から分泌されるセリンプロテアーゼです。前立腺に癌や炎症などの疾患があると血液中にPSAが浸出します。このように、PSAは前立腺がんのマーカーです。しかし、高齢者に発生する前立腺がんの25%から半数程度は、寿命に影響を及ぼさないと考えられています。というのは、前立腺がんの大部分は進行が遅く、死に至るのはわずか3%だからです。

つまり、高齢者の場合、PSA検査が高値を示しても、生検やその後の治療を積極的に行う意味がない症例がかなり存在することになります。治療は、手術、放射線照射などの侵襲的なものです。過剰検査が過剰治療を生む可能性があります。

これまでの「前立腺がんスクリーニングは(全)死亡率を改善しない」という報告を受けて、米政府の予防医学作業部会は昨年の10月7日、すべての年齢の男性に対して「PSA検査は勧められない」とする勧告案をまとめました。本論文は、2年間の追跡調査の解析により、「PSA 検査に基づくスクリーニングを行うことで前立腺癌死亡は有意に減少するが、全死因死亡への影響はない」という以前の結果が裏付けられたことの報告です。どう考えても、「PSAで前立腺がん死亡の低下」という共同通信のタイトルは”misleading”です。

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