以下は、記事の抜粋です。
名古屋大学の錫村教授らの研究グループが、アルツハイマー病や、悪化すると全身がまひする筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの進行を抑えるたんぱく質の生成に成功したと、6月21日付の米科学誌プロスワンに発表した。
発表によると、生成に成功したのは、漢方薬の原料である「甘草(かんぞう)」の主成分から化学合成した新たなたんぱく質「INI0602」。研究グループは、甘草の主成分が、脳内で多くなるとアルツハイマー病などを引き起こすグルタミン酸の大量放出を抑える効果があることを発見した。
この成分が、末端の血管から脳内に行き渡りやすくするために化学合成し、マウスの実験でも、効果が裏付けられたという。錫村教授は「これまでの治療法と違い、症状を根本的に抑えられた。新薬の開発につながる成功で、今後は、薬になじみやすいよう改良したい」と話している。
上の読売の記事は、「漢方原料」を強調するあまり、わけがわからなくなっているので、別の記事を抜粋して紹介します。
名大ら、アルツハイマーなどの神経変性疾患に対する新たな治療法を開発
ALSおよびアルツハイマー病などの神経変性疾患に共通の発症機序として、異常に活性化したミクログリアから放出される過剰なグルタミン酸が神経細胞を殺すというメカニズムが提唱されている。
研究グループは、ミクログリアからのグルタミン酸の放出口であるギャップ結合/ヘミチャネルを阻害することにより、ミクログリアによる神経細胞死を抑制できることを培養細胞モデルで示していた。しかし、グリチルレチン酸などの既存の阻害剤は、血液能関門を通過しないため、神経変性疾患には使用しにくいという問題点があった。
今回、同グループは多数のグリチルレチン酸誘導体を合成し、その中から中枢神経系への移行性を有する新規ギャップ結合/ヘミチャネル阻害剤「INI-0602」を発見、INI-0602のALS およびアルツハイマー病モデルに対する効果を検討した。
その結果、培養細胞モデルおよび動物モデルにおいて、異常に活性化したミクログリアのギャップ結合からのグルタミン酸放出を顕著に抑制し、神経細胞死を著明に減少させることが確認された。副作用および毒性は認められなかったという。
元論文のタイトルは、”Blockade of Gap Junction Hemichannel Suppresses Disease Progression in Mouse Models of Amyotrophic Lateral Sclerosis and Alzheimer’s Disease”です(論文をみる)。
ミクログリアはマクロファージと似た中枢神経系の免疫担当細胞ですが、抗原提示するだけではなく、活性化されると神経細胞を障害します。この活性化がALSやアルツハイマー病などの神経変性疾患の原因の一つだと考えられています。
活性化されたミクログリアは大量のグルタミン酸を放出し、MNDA受容体を介した神経細胞興奮毒性を引きおこします。そこで、NMDA受容体阻害薬の治療効果が調べられていますが、今までに神経変性疾患治療薬として成功したものはありません。
これは、NMDA受容体がミクログリアから放出されたグルタミン酸だけではなく、グルタミン酸を介する神経情報伝達においても重要な働きをしているからだと考えられています。本研究は、ミクログリアからのグルタミン酸放出を特異的に抑制する薬物の開発をめざすものです。
「INI-0602」と名づけられた血液脳関門を越えてギャップ結合/ヘミチャネルを阻害する、最初のグリチルレチン酸誘導体の神経細胞死阻害効果は、期待に沿うもののようです。臨床でもALSやアルツハイマー病に有効であることを期待します。
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