以下は、記事の抜粋です。
慶応大学の水島教授らと熊本大、日本医大の研究グループは10月20日、間質性肺炎による死亡例が相次いだ肺がん治療薬「イレッサ」で、副作用が起きる仕組みの一端を解明したと発表した。マウスの実験で細胞内の特殊なたんぱく質が減り肺炎が起きることを突き止めた。胃炎・潰瘍の治療薬「セルベックス」を併用すれば、イレッサの副作用を抑えられる可能性があるという。
研究論文が米科学誌プロスワンに掲載された。
水島教授らはイレッサがヒトの細胞に与える影響を詳細に分析。細胞内の「HSP70」というたんぱく質が減ることを発見した。このたんぱく質は肺が硬くなって呼吸機能が低下する間質性肺炎を防ぐ機能がある。マウスで実験したところ、HSP70が減り、間質性肺炎を起こした。
HSP70を増やすことで知られているセルベックスをイレッサとともにマウスに投与したところ、HSP70の量が回復し間質性肺炎の発症を抑えられた。
イレッサの副作用を巡っては患者や遺族が製薬会社などに損害賠償を求め提訴。一審・東京地裁は患者の一部遺族について国と輸入販売会社アストラゼネカ(大阪市)に賠償を命じた。患者側と国、ア社のいずれも判決を不服として控訴している。
非小細胞肺がんで上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor (EGFR))に変異があるものは、ゲフィチニブ(gefitinib、商品名:イレッサ)のようなEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に良く反応するとされています。
非小細胞肺がんの場合、ゲフィチニブやエルロチニブ(商品名:タルセバ)という分子標的薬を使うのは、(1)遠隔転移のある4期の患者、(2)胸水などがあり根治的な放射線治療が対象とならない3期(がんが周辺臓器へ広がっている病期)の患者、(3)最初に3期と診断された治療を受けた患者の再発後、(4)手術後に再発した場合です。
非小細胞肺がんの「ファーストライン」(第1次薬物療法)で使われるのは、主にシプラチナ系抗がん剤です。この治療の効果がなくなった時、「セカンドライン」として、主にドセタキセルなどが使われます。これらの化学療法に反応しなくなった時、「サードライン」として、ゲフィチニブなどの分子標的薬を使うのが、現在の肺がんの標準的な治療です。しかし、EGFR変異を有する非小細胞肺がんに対しての有効性が最近確認されたので、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が将来ファーストラインになる可能性があります。
世界に先駆けた2002年の承認直後、イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)は、「副作用の少ない夢の新薬」としてマスコミにもてはやされました。しかし、劇的な治療効果を得た患者の報告とともに、間質性肺炎などの副作用で死亡する報告が相次ぎました。2004年12月にはアストラゼネカ社が「延命効果なし」の試験結果を発表し、マスコミは一転して「薬害」として報道しました。記事のように、訴訟も起きました。
この研究に興味があったので、プロスワンのサイトに行ってみてサーチしてみましたが、出てきませんでした。調べたところ、掲載の通知があっただけで、掲載はまだだそうです(10月27日6時半の時点)。
上は日経の記事ですが、記者が論文を読まず、プレスリリースだけをみて記事を書いていることが良くわかります。確かにプレスのサイトには、「20日付で米国科学雑誌PLoS ONEへの掲載が決定」と書いてあります。アクセプトだけで記事になるとは驚きです。論文に期待したいと思います。
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