高齢者のワクチン接種が進んできた病院の現状。中年の重傷者が増えるとどうなるのか?

以下の埼玉医大病院についての記事が、高齢者のワクチン接種が進んできた病院の現状を示していると思います。まったく同感です。できれば元記事もお読みください。


第5波で増える40代、 50代の重症者…「現場としては結構しんどい」コロナ治療最前線の医師が抱く不安と希望
以下は、記事の抜粋です。


第5波はすでにこの総合医療センターにも到達しています。現在は中等症以上の方を中心に5名の患者を治療していますが、そのうち4名が40代および50代です。残り1名は80代で1回目のワクチンを接種済みの方ですが、デルタ株に感染しており、重症化しています。

感染者数全体は10代、20代、30代といった若年層が多い。若い人々が引き続き重症化しにくい一方で、ワクチンの接種が進むことで高齢者の重症者が減り、40代や50代の基礎疾患をお持ちの人の重症者が増えています。

うちの確保病床は重症者用は6床、そしてそれ以外の中等症などのための病床が20床以上あります。ですから、病床自体にはまだ空きはある。まだまだ空いているので、仮に今日搬送の依頼が複数来たとしても問題なく受け入れることができます。

ですが、入院を必要とする人々が以前よりも若いために変化が見えてきました。これまでは入院を必要とする患者の多くは高齢者でした。そのため、回復したとしても退院までにはリハビリや転院調整などが必要となることが多く、長い時間を要しました。

しかし、40代、50代の方の場合には入院したとしても、重症でなければ適切な治療を受けて回復することで比較的スムーズに退院していきます。ですから、現時点ではベッドの回転率がこれまでよりも良い状態です。でも、現場ではすでに負荷が高まりつつあり、しんどい状況です。このままのペースで感染者が増えれば、病床は埋まり、医療逼迫が訪れることは確実です。

もしかすると、このような要因から第5波ではなかなか病床全体の使用率は上がりにくい可能性があります。ですが、入退院が激しい中で病床使用率では見えない現場のスタッフへの負荷は高まりつつあります。

高齢者ではなく、40~50代が重症化することで、現場ではどのような変化が起きるのか?

重症化した際、人工呼吸器を着けるかどうかを判断する上ではご本人、ご家族と相談します。80代、90代の患者さんであれば、希望しないというケースも少なくありませんでした。しかし、40代、50代の患者さんとなると、ほぼ全ての人が救命を前提とすることが予想されます。

おそらく高齢者よりも40代~50代の人の重症化率は低くなると思います。しかし、重症化した場合に人工呼吸器を着ける人の割合は高齢者よりも高いでしょう。ほとんどの重症患者が人工呼吸器を必要とするということは、重症者の受け入れを中心に医療逼迫も起きやすい。このペースで感染者が増えれば、2週間程度で当院の新型コロナ病床は逼迫する可能性があります。

1度人工呼吸器をつければ、平均的にはおよそ3週間程度は外せません。ですから、このまま感染者数が増え続ければ、重症者を中心に受け入れが難しくなり、再びの医療逼迫は避けられません。

「重症化」とは実際にはどんな状況か?

新型コロナに感染すると、ほとんどの人は後遺症の問題はあるものの、1週間程度で軽快します。しかし、一部の人は1週間が経過した後も発熱が続き、肺炎が明らかになり悪化していきます。

入院が必要なタイミングではまだ多くの患者さんは重篤には見えない状態です。大体の人は病院へ搬送された時点では意識も良いし、歩くこともできる。新型コロナの患者は喘息や間質性肺炎などと同じ酸素飽和度であっても、平静を保っていることが多いのです。咳をしたり、熱はあるけど肩で息をしているような人は少ない。

酸素飽和度はかなり低いので、「どうですか?苦しいですか?」と医師は聞きます。すると、大抵は「いや、そうでもないですね」と答えます。でも、実際には重篤な酸欠状態にすでになっている。入院してからも、他の呼吸不全の患者さんのように音を立てることも少ない。ベッドサイドが静か、というのが私の新型コロナの患者さんのイメージです。

そんなに元気ならば大したことないじゃないか、と言う人がいるかもしれません。ですが、さっきまで歩いていた、苦しくないと言っていた人の様子が数時間で一変します。突然、崖を転げ落ちるように状態が悪化する

一般的な大病院の呼吸器内科であれば、研修医を含む医師3名で10人程度の患者を担当します。その中で、人工呼吸器を必要とする人は多くても1人いるかどうかです。ところが、新型コロナの感染拡大時には一番重症者が多い時で7人から8人が同時に人工呼吸器をつけてそれを少ない医師で受け持っている状態です。

人工呼吸器を着ける人には、血圧の変化に対応したり、人工呼吸器が外れるような命に関わることがないように、つきっきりで対応する。寝返りをうつこともできないため、定期的に姿勢を変えなければいけません。痰が出れば、それを吸引します。排泄物の処理も必要です。食事も取れない状態なので、点滴を外すことはできません。血圧を維持する薬を使い、モニターでずっと心電図を見ている。

看護師以外にも、質の高い治療を提供するために医師は1人の患者につきっきりで対応します。さらに人工呼吸器を扱う技師やリハビリをする技師など、医療従事者はのべ10人ほど必要です。そして、それを3交代で24時間代わる代わる担当する。10人×3交代で30人。

単純計算ではありますが、1人の重症患者を診るということは、のべ20~30人の医療従事者の力が必要となります。それが多いときには7人から8人並ぶ。現場への負荷は非常に大きいです。

人工呼吸器をつけた最重症患者の死亡率は報告にもよりますが2-3割であるため、現場を指揮する医師として、頑張った患者さん、懸命に治療や看護に当たったスタッフを私は非常に誇らしいと感じています。何もしなければ、みんな亡くなっていたと予想される方々ばかりでした。

第5波でも、そんな「医療崩壊」の事態だけは何としても避けたいと思っています。五輪の開催が、感染対策にプラスに作用することはありません。感染拡大への影響をできる限り小さくするための工夫が必要とされています。

五輪で日本選手が活躍し、世間の注目はそちらに集まる中、医療現場は大変な状況に陥る…私はそれを一番恐れています。

最前線で治療にあたる中で、ワクチン接種による効果を実感しています。このままワクチン接種が順調に進めば、第6波が起きたとしても医療逼迫は起きないかもしれません。コロナはなくなることはないかもしれませんが、ワクチンによって病原性が落ちて、日常生活が戻ってくるというシナリオは十分に考えられると思います。

ゴールは見えてきています。野球で例えれば、今は8回裏。1点差の緊迫した状態です。油断すると逆転されてしまう。しかし、勝利は目前です。

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