認知症の父が電車にはねられ死亡、高額賠償請求 遺族の苦闘、それを救った最高裁判決
以下は、記事の抜粋です。
2007年12月に認知症の高齢男性が電車にはねられて亡くなり、遺族が鉄道会社から高額な損害賠償を請求された訴訟は、最高裁判決で遺族が逆転勝訴した。家族だけが責任を抱えなくてもいいとの初の司法判断で、地域で自分らしく暮らし続けたい認知症の人を勇気づけた。
日が落ち、辺りは暗くなり始めていた。2007年12月7日午後5時ごろ、愛知県大府市。高井隆一さん(70)の父良雄さん=享年(91)=がデイサービスから帰宅して間もなく外へ出ていった。同居の母がうたた寝した、わずか6、7分の間だった。隆一さんは東京都内の勤務先で、妻からの電話を受けた。「(良雄さんが)JRの駅構内で電車にはねられたらしい。急いで帰ってきて」
■地裁と高裁は、高額賠償を認める判決
良雄さんは認知症があった。所持金はなかったが、最寄り駅の有人改札をすり抜けて電車に乗り、一つ先の共和駅のホームに降り、フェンスの扉を開けて線路に入った。トイレを探して迷い込んだとみられている。一審名古屋地裁は13年、母の居眠りは過失にあたり、介護方針を決めていた別居の隆一さんも監督義務があったとして、2人にJR東海が請求した振り替え輸送費など約720万円全額の支払いを命じた。
家族は外出を繰り返す良雄さんの気持ちを尊重し、行方不明までにはならないよう、できる限りのことをしてきた。隆一さんはほぼ毎週末、横浜市から新幹線で実家に帰り、良雄さんの散歩に付き添った。隆一さんの妻は介護のため単身で大府市に住み、外出する良雄さんの後に付いて見守った。母は当時85歳で要介護1だったが、玄関の出入りを知らせるチャイムを枕元に置き、深夜でも注意を払った。
しかし、そんな家族の努力は法の場で否定された。一審でJR東海側は、良雄さんの衣服に名前と連絡先を縫い付けていたことを挙げ、「行方不明時に第三者の好意に期待するのは単なる甘え」と非難までした。JR東海が強気の姿勢を貫いた背景に、責任能力のない人が他人に損害を与えた場合は家族らの弁済が当然とする当時の司法の「常識」があった。二審名古屋高裁は母に約360万円の支払いを命じた。隆一さんを外して支払額を半額とした判決を、法曹界は「介護の大変さも配慮して知恵を絞った」と評価までした。
「家族が責任を問われるなら、家に閉じ込めておくしかないということか」。司法への怒りが隆一さんを「負けて当然」の裁判に挑ませた。
■最高裁、認知症の人による事故で、防ぎきれないものまでは家族が責任を負わないとする判断
16年3月、最高裁はJR東海の請求を棄却した。この判決を受け、認知症の人による事故の保険商品が広がり、公費で保険料負担する自治体が増えていった。訴訟は、認知症の人の介護を家族だけに抱え込ませてきた社会の現状に一石を投じた。
電車が正常に運行している場合の人身事故は、鉄道会社には非がなく、人身事故の原因になれば、刑事責任を問われるだけでなく、電車を遅延させると民法709条の不法行為に該当する可能性があります。不法行為に該当するときは、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害した場合、行為者にその損害を賠償する責任が生じます。さらに、人身事故を起こすと、事故で損傷した車両や線路、関連機器・設備の修理費用、ケガをした乗客などの損害賠償が発生する恐れがあります。また、長時間にわたって電車遅延させてしまった場合は、代替交通機関の振替輸送費や、事故対応のための人件費、乗車券や特急券などの払戻などが発生します(記事をみる)。
認知症の高齢者が起こした人身事故の報道は、上の記事のようにメディアが紹介する場合も多いですが、自殺と思われるような事故の報道はほとんどされません。自殺によると思われる人身事故例についても、家族の責任や賠償額などについての報道を行うことが、事故の抑制につながるのではないかと考えています。メディアのご検討をお願いします。
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