2型糖尿病における強化血糖降下療法は、全死因死亡や心血管死リスクを抑制しない

Effect of intensive glucose lowering treatment on all cause mortality, cardiovascular death, and microvascular events in type 2 diabetes: meta-analysis of randomised controlled trials

以下は、論文要約の抜粋です。


目的:2型糖尿病患者に対する強化血糖降下療法(intensive glucose lowering treatment)に関連した全死因死亡と心血管イベントによる死亡を調べる。

方法:心血管イベントと血管合併症に対する強化血糖降下療法の影響を調べたランダム化対照比較試験13件のメタ解析を行った。主要エンドポイントは、全死因死亡と心血管イベントによる死亡。第2エンドポイントは、重症低血糖と血管イベントとした。

結果および結論:対象とした34533例の患者の中、18315例が強化血糖降下療法を受け、16218例が標準療法を受けた。強化療法は標準療法と比べて、全死因死亡(リスク比1.04)、心血管死(同1.11)に有意な影響を与えなかった。強化療法は、死因にならない心筋梗塞(同0.85)と微量アルブミン尿(同0.90)の発生を抑制する一方、重篤な低血糖リスクは2倍以上(同2.33)上昇させた。また、Jadadスコア3以上の試験に限った解析では、強化療法は、鬱血性心不全のリスクを47%増やしただけで、他のリスクを有意に抑制しなかった。

メタ解析の結果は、強化血糖降下療法の全死因死亡と心血管イベントによる死亡に対するベネフィットを示せなかった。血管イベントの予防についてもまだ結論を出すことはできない。ベネフィットがあったとしても重症低血糖のリスクとのバランスが問題となる。結論を得るためには、さらに二重盲検臨床試験を重ねる必要がある。


メタ解析なので、強化療法グループと標準療法グループでの目標HbA1c値は少しずつ異なりますが、最も一般的なのは強化グループで6.7~7.0%、標準グループで7.5~8.0%です。HbA1cの国際標準化ができていないため、日本でのHbA1cはアメリカでのHbA1cよりも約0.4%低いことを考えると、日本では、6.5%以下に抑えようとするのが強化療法に相当すると思います。

実際、日本糖尿病学会ガイドラインは、目標値としてHbA1c<6.5%を推奨していますが、本論文の結果をみると無理やり6.5%以下に抑える意味はなさそうです。論文でも“the lower the better”という発想でやたらHbA1cを下げることを目標にしたり、血糖やHbA1cを良く下げる薬物が良い薬物だという評価をすべきではないとしています。

また、強化療法による鬱血性心不全リスクの増加が示唆されていますが、個々の薬物では体重増加を来たしやすいスルホニル尿素系の薬物が一番疑われているようです。逆に、体重増加や重症低血糖を来しにくいメトホルミンが推奨されています。

本論文によって、強力な血糖降下作用をもつ薬物をどんどん使って血糖―HbA1cを下げることが必ずしも良いことではないことは良くわかりました。食事療法とメトホルミンぐらいでHbA1c7.5~8.0%(日本では7.0~7.5%)ぐらいでも満足すべきなのでしょうか?臨床試験の続報を待ちたいと思います。

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