PARP阻害薬の効果と”BRCAness”(DNA相同組み換え修復能不全)の評価

卵巣がんや乳がんにPARP阻害薬~開発進む新機序の分子標的薬
以下は、記事の抜粋です。


PARP(poly[ADP]-ribosepolymerase)阻害薬とは、遺伝性乳がんや卵巣がんの原因であるBRCA1/2遺伝子の機能不全によりがん化した細胞に対して、特異的に細胞死を誘導することを目的に開発が進められている分子標的薬だ。

現在、乳がん患者の5~10%、卵巣がん患者の10~15%が遺伝性腫瘍と考えられている。その原因遺伝子として特に研究が進んでいるのがBRCA1/2遺伝子だ。細胞のDNA損傷は、PARPというDNAの1重鎖を修復する遺伝子の働きにより修正されている。PARPが機能しない場合でも、2重鎖DNAを修復するBRCA1/2遺伝子により、DNA損傷は修復される。

一方、BRCA1/2が機能しない細胞に、このPARPの機能を阻害するPARP阻害薬を投与すると、DNA修復機能が2種類とも働かなくなる。その結果、「合成致死」と呼ばれる細胞死が誘導されると考えられている。

さらに近年、BRCA1/2遺伝子に変異を有さない卵巣がん患者においても、BRCA1/2遺伝子の発現が何らかの因子により抑えられている状態(BRCAnessと呼ばれる)が存在することが分かってきた。卵巣がんの約8割を占める漿液性卵巣がん患者のほとんどが、BRCAnessの状態にあるそうだ。

今年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、この漿液性卵巣がんを対象としたPARP阻害薬オラパリブの臨床試験の良好な結果が発表された。すなわち、オラパリブ投与群で、有意に無増悪生存期間が延長された。一方、今年1月にNEJM誌に発表された転移性のトリプルネガティブ乳がん患者を対象とした第2相臨床試験では、PARP阻害薬イニパリブの追加で無増悪生存期間が有意に延長され、かつ全生存率も改善が示された(関連記事参照)。ところが今年のASCOで発表された第3相臨床試験では、全生存率に有意な改善効果が示されなかった。

ただし、トリプルネガティブ乳がんのうち、BRCA1遺伝子変異は2~3割にすぎないために有意差が出なかった可能性があり、今回の結果のみでイニパリブが乳がんに効かないと判断すべきではないと考える研究者もいる。


上記のトリプルネガティブ乳がんに対するイニパリブの第2相臨床試験に関するNEJM誌の記事を読んで、関連記事を書いたのですが、第3相の結果があまり良くなさそうなのには、「合成致死療法」にとても期待していただけに、かなりガッカリしました。

PARP阻害薬が有効であるためには、BRCAなどが関与する相同組み換え(HR)修復がある程度以上機能低下していることが必要だと思われます。BRCA1/2遺伝子における変異の存在のように、遺伝子検査で簡単にわかるものは良いですが、エピジェネティクな影響などでHR修復が機能低下している場合は、現在の検査技術では判定できません。

記事では、BRCA1/2の遺伝子検査の保険適用を乳癌学会が要望すると書かれていますが、遺伝子異常がBRCAnessの一部でしかないのであれば、それだけではもの足りない感があります。がんのBRCAnessを正しく評価できる方法の開発がPARP阻害薬の将来を左右すると思います。
PARP阻害薬による抗腫瘍効果「合成致死」の発現メカニズム(がんナビより)

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転移性トリプルネガティブ乳癌に対するイニパリブと化学療法の併用、「合成致死」について

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