メディアが報道する「アビガンが効いた」は本当か?

メディアが報道する「アビガンが効いた」は本当か?
以下は、記事の抜粋です。


Q:著名人が飲んで治った薬なら,よく効くのか?
健康や医療に関して,入手した情報が正確かどうか,皆さんはどのように判断していますか?
今回は,医学的なモノサシで情報の信頼性を判断する方法について解説します。
具体的には,その情報の信頼性を損なわせてしまう「偏り(バイアス)」や「偶然」の入り込む余地がどれくらいあるのかを注意深く見極めていきます。これは,ヘルスリテラシーで求められる,健康情報を「入手」「理解」「評価」「活用」するという4つのスキルのうちの,「理解」「評価」に関連します。
練習問題として,新型コロナウイルス感染症の治療薬として注目を集めている「アビガン(薬剤名:ファビピラビル)」に関する報道記事を取り上げてみます。

「飲んだ,治った,だから効いた」と言い切れるのか?
著名人が新型コロナウイルス感染症に罹り,アビガンを服用して回復したという報道を目にした人は多いと思います。しかし,この情報をちょっと疑った目で見ると,違った側面が浮き彫りになってくるかもしれません。
例えば,「たまたま,その著名人にだけ効いたのではないか?」「アビガンを使わなくても治ったのではないか?」「他の治療もおこなっていて,それが効いたのではないか?」といった疑問に対して,経験談の情報は応えてくれません。つまり,経験談には「偏り(バイアス)」や「偶然」の入り込む余地があることになります。言い換えると,情報としての信頼性は低く見積もっておく必要があります。ですので,冒頭のクイズ「著名人が飲んで治った薬なら,よく効くのか?」の答えは「✕」になります。

専門家の発言に裏表がないと言い切れるか?
新型コロナウイルス感染症に関連して,さまざまな肩書の人が「専門家」としてメディアに登場しました。しかし,医学博士の肩書はあっても医師ではなかったり,医師の肩書はあっても感染症の専門家ではなかったりしたケースなどが散見されていました。また,根拠となるデータを示さず,「知り合いから聞いた」など伝聞として発言しているようなケースもありました。つまり,このようなケースの情報は,「専門家」の肩書がいくら立派なものであっても,「偏り(バイアス)」や「偶然」の入り込む余地があることを意味しています。
さらに,注意が必要な点として「利益相反」の問題があります。例えば,テレビで「○○検査を積極的にするべきだ!」と発言していた医師が,自分のクリニックで○○検査をバンバンおこなっていたとしたら・・・。もしかすると,テレビでの発言は宣伝の一環で,都合の悪いことは隠されていた可能性を否定できません。そうなると,情報に「偏り(バイアス)」が生じてきてしまいます。

細胞・動物実験の結果は人にも当てはまるのか?
もともと,アビガンは「インフルエンザウイルス」に対する治療薬として開発されています。コロナウイルスとインフルエンザウイルスは共にRNAウイルスであることから,効果を発揮するメカニズムも同様であると説明されています。しかし,メカニズムが理路整然と説明できることが,人に対して効果があることを意味しているわけではありません。もし,そのロジックが成り立つのであれば,世間にあふれるさまざまなサプリメントなどの民間療法は,全部「人に効く」ということになってしまいかねません。しかも,そもそも細胞実験でのアビガンの効果は,レムデシビルやクロロキンなどの他の薬剤よりも,ウイルス阻害作用が低かったという報告すらあります。

多くの人が,「新型コロナウイルス感染症にアビガンが効いた」といった報道を目にしたと思います。しかし,残念ながら,情報としての信頼性は,医学的視点から見ると「低い」と言わざるを得ないものがほとんどです。


今年の4月ごろ、かなり名が知れていて多くの友達を持つ影響力がある人がFacebookで「アビガンが効くことはよくわかっているのに、なぜもっと使わないのか。」と訴えていたので、上で書かれているような「使っ、治っ、効い」の「3論法」の問題点を指摘したのですが、私の説明の仕方が悪かったのか全く受け入れてもらえず、その人との関係が悪くなってしまいました。こんな簡単な理屈でも、効果があって欲しいと強く願っている人には通用しないことを痛感しました。だからこそ、怪しげなサプリや民間療法が世の中に広くはびこるのだと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました