以下は、論文要約の抜粋です。
脂肪組織、筋肉、肝臓、マクロファージでは核内受容体peroxisome proliferator–activated receptor-γ (PPAR-γ) がインスリン感受性を決定している。また、PPAR-γはロシグリタゾンやピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオン系薬物 (thiazolidinediones: TZDs) のインスリン感受性作用を媒介する。
PPAR-γは脳にも存在する。脳のPPAR-γの役割を明らかにするために研究者らは、脳特異的PPAR-γノックアウトマウス(Pparg-BKO)を作製した。高脂肪食を与えると、Pparg-BKOマウスはコントロールマウスに比べて食物摂取が減少しエネルギー消費が増大するため体重増加が減少した。
Pparg-BKOマウスは、ロシグリタゾン投与による過食や体重増加に抵抗した。一方、ロシグリタゾンによる糖代謝改善はほとんど認められなかった。これは、肝臓でのインスリン増感作用に脳のPPAR-γが必要であることを示唆している。」
A role for central nervous system PPAR-γ in the regulation of energy balance
以下は、論文要約の抜粋です。
PPAR-γは脂肪によって活性化される核内受容体で脂肪や糖の代謝に関わっており、2型糖尿病治療に用いられるチアゾリジンジオン系薬物(TZDs)の標的分子である。TZDs共通の副作用は体重増加である。
本研究では、これまで不明だった脳PPAR-γのエネルギーバランスにおける役割を明らかにした。具体的には、ラット脳視床下部で、急性あるいは慢性にPPAR-γを活性化するとエネルギーバランスがプラスになり、カロリー消費、体重、体脂肪が増加した。
逆に、拮抗薬やshRNA投与で脳PPAR-γの活性化を阻害するとエネルギーバランスがマイナスになり、ロシグリタゾン投与による過食をブロックした。
2つの論文に共通の結論は、ロシグリタゾンが食物摂取量を増加させ、体重を増加させるのは、脳のPPAR-γに作用した結果であるということです。
また、1つ目の論文によると、ロシグリタゾンの肝臓でのインスリン増感作用にも脳のPPAR-γが必要のようです。私は、こちらの結論の方が重要だと思います。つまり、この結論が正しければ、血液脳関門を越えないようなTDZ系薬物を作ったとしても、副作用の食欲亢進による体重増加がおこらないだけではなく、主作用のインスリン感受性改善による効果も低下するということになってしまいます。
ラットを用いた2つ目の論文ではこのような結果は示されていないので、ヒトでも脳PPAR-γが末梢でのインスリン感受性を制御しているかどうかはまだわからないと思います。
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