Frightening Risk of Marfan Syndrome, and Potential Treatment, Elucidated
以下は、記事の抜粋です。
マルファン症候群は呼吸器、骨格、心臓血管系などの結合組織が弱くなる遺伝病で、最も大きなリスクは大動脈瘤破裂だ。現在、ほとんどの患者は動脈瘤を防ぐためにβ受容体遮断薬を服用しているが、これらの患者の半数以上は将来外科手術による治療を必要とすると考えられている。
5年前、Johns Hopkins大の小児心臓病医Harry Dietzは、マルファン症候群の治療を一変するかもしれない新しい治療法を発見した。降圧薬のロサルタンがマルファン症候群のマウスモデルで動脈瘤をほとんどなくしてしまったのだ(Science, 7 April 2006, pp. 36 and 117)。早速、臨床試験が開始され、現在も続いている。それを聞いて、自分で薬を求めて服用する患者もいる。
彼は5年前に、ロサルタンがTGF-βの抑制を介して大動脈の肥大化と脆弱化を止めることを発見したので、その後はTGF-βの下流シグナルを調べた。その結果、マルファン症候群で動脈瘤ができるメカニズムとロサルタンが作用するメカニズムを解明し、4月15日のScience誌に報告した。
TGF-βの下流にはSmadとERKがあることが知られているが、動脈瘤の発生にはSmadではなくERKが重要であることがわかった。がんの臨床試験に使われているERK阻害薬がロサルタンと同様、マウスの動脈瘤の発生を完全に抑えたのだ。ロサルタンは強力なERK阻害薬として働いていたらしい。
しかし、ERKの活性化だけで動脈瘤ができるわけではなく、Noonan症候群という遺伝病では、ERKが活性化されているのに動脈瘤はほとんど発生しない。逆に、TGF-βを阻害するとマウスの腹部に別の種類の動脈瘤ができたという報告もある。
問題は、ロサルタンが臨床的に有効かどうかだが、608例を対象としたロサルタンの臨床試験が現在進行中で、あと2-3年で結果が出るそうだ。ただ、ロサルタンだけで十分という保障はないので、ERK阻害薬という代替手段の出現は歓迎されている。
元論文のタイトルは、”Noncanonical TGFβ Signaling Contributes to Aortic Aneurysm Progression in Marfan Syndrome Mice(論文をみる)”と”Angiotensin II Type 2 Receptor Signaling Attenuates Aortic Aneurysm in Mice Through ERK Antagonism(論文をみる)”です。
動物の細胞外マトリックスを作る弾性繊維を構成する糖タンパク質フィブリリン(Fibrilin)をコードするFBN1遺伝子の変異がマルファン症候群の広範な表現型に関わるとされています。マルファン症候群は、FBN1遺伝子のハプロ不全によると思われる常染色体優性遺伝を示します。本論文で使用されたモデルマウスもFBN1遺伝子のハプロ不全によるものです。
患者は近視、網膜剥離、緑内障の発症リスクが高く、クモ状肢、漏斗胸、鳩胸、脊柱側彎症などが認められます。早期死亡の主要な病因は、上記記事にも書かれているように、大動脈の断裂や破裂、僧帽弁逸脱、三尖弁逸脱、近位の肺動脈拡張などです。しかし、適切な治療により患者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになるそうです(病気の説明をみる)。
フィブリリン不足がなぜTGFβ経路を活性化するのかはわかりませんが、TGFβ受容体をコードするTGFBR1やTGFBR2のヘテロ変異でもマルファン症候群様の症状を示すそうですので、マルファンの症状発現においてTGFβ経路が重要なのは間違いなさそうです。
記事にも書かれているように、ロサルタンの臨床試験の結果が期待されますが、β受容体遮断薬よりもはるかに有効であれば、臨床試験は早期に中止されるはずですので、まだ続いているということは、それほど有効ではない可能性もあります。
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