以下は、記事の抜粋です。
国内では未承認のパーキンソン病治療薬「アポモルフィン」が、アルツハイマー病の原因とされる「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質の分解を促進し、記憶障害を改善させることを、九州大の大八木准教授らの研究チームがマウスを用いた実験で明らかにし、3月3日付で公表した。
研究では、遺伝性アルツハイマー病のマウスにアポモルフィンを1カ月間に5回皮下注射。水槽を使った「水迷路」試験で、注射しなかったマウスに比べゴールの位置の記憶力が明確に改善したほか、多くのマウスで脳内のアミロイドベータの減少を確認したという。さらに、ヒト由来の培養脳神経細胞を使った別の実験で、アポモルフィンがアミロイドベータの分解酵素を活性化させていることが分かった。
大八木准教授は「アポモルフィンには記憶障害を回復させる新しい効果があると考えられ、より効果的な治療薬の開発につなげることが期待できる」と説明。
元論文のタイトルは、”Apomorphine treatment for alzheimer’s mice promoting amyloid-β degradation”です(論文をみる)。
アポモルフィン(塩酸アポモルヒネ)は、1869年に初めて催吐剤として使用されて以来、20世紀前半には統合失調症患者の鎮静剤として、またアルコール中毒患者や麻薬中毒患者の行動改善薬として使用されました。日本でも、1886年から1966年までの間、日本薬局方あるいは国民医薬品集中に記載されており、高用量(常用量は5㎎皮下投与、極量は20㎎皮下投与)で催吐剤、低用量(水剤、0.5~1㎎/回)で去痰剤として臨床使用されていました。現在は使われていません。
欧州では1967年から現在まで、パーキンソン病の治療薬(皮下注射;1.5~10㎎/回、2~8回/日)等として臨床で使用されています。嘔気・嘔吐の副作用を抑えるために血液脳関門を越えないD2ドーパミン受容体拮抗薬のドンペリドンと併用されることが多いようです。
最近注目を浴びたのは、勃起不全治療薬としてです。舌下錠として用いるので即効性ですが、局所の血流には影響せず、中枢ドーパミン受容体を刺激して性的渇望をひきおこすとされています。武田薬品が2001年承認取得し独仏で発売しましたが、強い副作用のため米国と日本では開発を中止しました。
しかし2004年、アポモルヒネの皮下注製剤(Apokyn Mylan/Bertek;日本未開発)が、進行したパーキンソン病患者の運動低下(オフ現象)に対する治療薬としてFDAに承認されました。これらはいずれも、ドーパミン受容体刺激がそのメカニズムです。
一方、本研究の場合は、トリプル・トランスジェニック・アルツハイマー病マウス(3xTg-AD)にアポモルヒネを皮下注射して、その行動や脳内アミロイドβ量への影響を調べています。効果のあった脳の部位にドーパミン受容体が分布していないことやpramipexoleという別のD2ドーパミン受容体刺激薬に効果が無かったことから、アルツハイマー病モデルに対する効果はドーパミン受容体を介さないと結論しています。
いずれにしても、アポモルヒネをそのままアルツアイマー病治療に使うと、嘔気・嘔吐や性衝動の問題がおこりそうですので、投与法あるいは薬物そのものの改善が必要だと思われます。
コメント