1回の細胞イベントで生じたと思われる大規模なゲノム再配列とそのがん化における意義

Massive Genomic Rearrangement Acquired in a Single Catastrophic Event during Cancer Development

以下は、論文要約の抜粋です。


がんは体細胞における突然変異と染色体の再配列により生じる。従来、このような遺伝的な変化は長い時間かかって蓄積するものだと考えられてきた。

本研究では、次世代シーケンサーを用いて発見された”chromothripsis”と名づけたゲノムの再配列を報告する。1つあるいは2-3の染色体の限られた領域において、何十、何百の染色体再配列認められることが特徴である(下図参照)。このような特徴的な遺伝学的変化が長い時間をかけて徐々にできたとは考えにくく、すべての変化が1回の細胞の破局で生じたことを示唆している。

このような”chromothripsis”によると思われる染色体変化は、少なくともすべての種類のがんの2%–3%に認められ、骨のがんでは約25%に認められる。”chromothripsis”は、ゲノムのリモデリングやがんの発生において重要な意義があると思われる。


“chromothripsis”という言葉は、論文では”Greek, chromos for chromosome; thripsis, shattering into pieces”と説明されています。「染色体」と「粉々に砕ける」というギリシャ語から新しく造った言葉のようです。

下図のように、1から数本の染色体の限局した領域で、バラバラになった染色体の断片がメチャクチャに繋がったような構造が発見されました。これは、次世代シーケンサーを用いて、がんゲノムを片っ端から配列解析をすることが可能になった成果の一つだと思います。

論文では、”chromothripsis”の原因として、染色体凝集やテロメアの消耗に関連する可能性を書いています。また、Natureの解説では、アポトーシスが途中で止まることが原因ではないかと書いています(解説をみる)。原因は何であれ、このような遺伝的変化がおこった細胞はほとんどが死ぬと思われますが、稀にがん抑制遺伝子が不活化されたり、他の変異や再配列が重なった場合にがん化へと進む細胞があるのでしょう。これまでのゲノム再配列やがん化の常識を変える発見だと思います。

“chromothripsis”のイメージ図(Natureより)

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