ファイザー社が研究開発部門を縮小
以下は、記事の抜粋です。
製薬産業は、「特許の崖(patent cliff)」に対して何年も準備してきた。”patent cliff”とは、これまでブロックバスター(超大型新薬)とされてきた様々な薬物が、特許切れによってジェネリック薬に対する防御を失い、売り上げが大きく落ちることだ。
それでも、先週(2月の第1週)の製薬研究とその研究者についての悲惨なニュースは、多くの人々を驚かせた。売り上げ世界最大の製薬企業であるファイザー社が、その研究開発(R&D)部門について数十億ドルの予算カットと数千人の解雇を発表したのだ。いくつかの重要な薬物の特許切れが近いことがその背景にある。
その主な対象は、バイアグラが開発されたことで知られる英国のサンドイッチにある研究施設である。当施設は、18–24ヶ月以内に閉鎖され、2400人の従業員(大半は研究者)が余剰人員の解雇に直面する。一方、米国コネチカット州、グロトンにある同社の研究開発ヘッドクォーターでも1100人の人員削減が予定されている。ファイザー社は同時に、これまで80-80.5億ドルかけていた研究開発予算を65-70億ドルに減額すると発表した。
「多くの研究者が職を失うだろう。昨年のGSKやアストラゼネカに続くファイザーの予算・人員カットは、これまで英国の強みだった製薬産業と大学の結びつきがなくなってしまう。このまま製薬企業が撤退してしまえば大学にとって重大な問題がおこるだろう」と英国の大学関係者は述べている。
ファイザー社は、有望な候補薬を除いて、サンドイッチで行っていたアレルギーや呼吸器病に関する研究に見切りをつけようとしている。計画では、神経科学、腫瘍、ワクチン、心血管系、炎症治療などにフォーカスする予定だ。しかし、リピトールなど全売り上げの2/3を占める薬物が、向こう3年間で特許切れを迎えることを考えれば、この予算削減が最後とは思えない。
ライバルの製薬企業も同様の理由で、新薬開発への投資を躊躇し、自社株買い、研究開発の外注、低収益領域からの撤退に走っている。あるビジネス史専門家は、「製薬企業はそのコアの力をマーケティングとFDAなどとの交渉の2つにつぎ込もうとしている」と指摘する。「臨床開発は続けるかもしれないが、新薬発見はもう続けないだろう」とも述べた。
このニュースで取り上げられている”patent cliff”は、「2010年問題」として日本でも話題になっています。製薬企業やそこで働く研究者にとって今だけが厳しいだけではなく、今後ますます状況は厳しくなっていくという予測です。
以前の記事にも書きましたが、先進諸国ではヒトの平均寿命が生物学的限界に近づきつつあり、「新薬の登場よりも、特許切れのペースが速い」状況の中で、「新薬を次々と研究開発して儲ける」という製薬大手のビジネスモデルが過去のものになろうとしています。
製薬大手はこのような変化に対応して、研究はベンチャーに臨床開発はCROにアウトソース(外注)し、マーケティングと監督官庁との交渉に特化した「商社」的なものに変化しようとしています。同時に、これまで進出していなかったジェネリック市場にも積極的に参入しています。さらに、この記事にあるように業界再編に伴う他企業からのM&Aに抵抗するための自社株購入などを行っています。
日本の製薬企業はどうするのでしょう?海外大手に追随するか、ベンチャー化するか、いずれにしても製薬企業への就職、特に研究職を希望している学生さんは大変です。製薬企業がこれまで依拠してきたビジネスモデルが崩壊しつつある現状を理解したうえで、職種や会社を選びましょう。製薬企業と結びつきの強い大学や学部も大変です。どうしたら良いのでしょう?
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コメント
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外資はシビアです。
必要最小限の研究施設、人員でやるしかないでしょうね。
後発品発売までの期間を長くするかわりに、後発品発売とともに薬価を大きく下げるとか、もう少し考えないと先発品の企業も立ち行きません。
医歯薬系の大学も、資格取得に特化した学校と、基礎研究も行うところを真剣に分けないといけないかもしれませんね。専門学校みたいですが。
製薬会社の研究員をしていたことがあります。なんだか複雑な心境です。