糞便移植―Clostridium difficile感染、炎症性腸疾患や肥満にも有効?

Fecal matters

以下は、記事の抜粋です。


危険な腸疾患が増えつつあるが、その最も有効な治療薬を我々はトイレに流しているのかもしれないと一部の医師は考えている。彼らが推奨するのは、健康な人の糞便を患者の直腸に移植するという方法である。以下は、Palmer記者の取材による。

Lawrence Brandt医師の患者の一人で、繰り返す下痢に悩みClostridium difficileという病原菌と戦うための抗生物質に$17,000以上使った60歳の女性は、この病気を治すためなら何でも試したいと考えていた。

Brandt医師は、「抗生物質が彼女の腸内細菌叢を変えてしまったのなら、細菌叢を元に戻せばよい」とひらめき、健常人の糞便を移植すれば正常の細菌がC. difficileにとって代わるのではないかと考えた。彼女の夫がドナーに選ばれた。

夫が持参した糞便を生理食塩水とよく混ぜてバターミルク状にしたもの200mlを、洗浄した結腸に約10センチ間隔で結腸鏡を使って注入したところ、6時間後には彼女から「こんな良い気持ちの腸を感じるのは1年ぶりです」という電話があったそうだ。

このような治療を支持する医師や研究者も多いが、批判的な意見も多い。体液を移植することによる肝炎やAIDSなどの感染を恐れるためだ。それでもBrandt医師らは、抗生物質による治療が高額なだけではなく不完全であることを指摘し、「何年もかかる抗生物質にするか、10分で終わる移植にするか?」という。

2000年にBrandt医師がこのアイディアを思いついた時、彼はまったく新しいアイディアだと思ったのだが、そうではなく、最初の報告は1958年で、1981年にも腸炎患者に対する治療として糞便移植が報告されているそうだ。しかし、このような長い歴史にも関わらず、無作為化二重盲検試験はほとんど行われていなかった。

最初のこのような臨床試験―’Fecal Therapy to Eliminate Clostridium difficile–Associated Longstanding Diarrhoea’略称”FECAL”は2009年の末にオランダで始まったばかりだ。治療標的は、Clostridium difficileだけではない。痩せたヒトの糞便を太ったヒトに移植して肥満者の糖尿病治療を試みている研究チームもある。潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患でも良好な成績が報告されている。

しかし、作用メカニズムについてはほとんど不明である。例えば、ドナーの菌が病原菌に取って代わるのか?あるいは、未知の相互作用があるのか?などはわかっていない。今のところ、有効な菌は不明なのでベストの治療は糞便そのものだそうだ。

糞便移植は2008年に人気テレビドラマ”Grey’s Anatomy”にも登場したが、まだまだ認知度は低く、安全性を疑う声もある。しかし、その科学的根拠は徐々に解明されつつあり、様々な腸疾患において第一選択治療になることが期待されている。


腸内細菌の一つであるビフィズス菌の場合は、ビフィズス菌が作る酢酸が、病原性大腸菌O157に対する抵抗力を高めるという論文が少し以前にありましたので、C. difficileの場合も酢酸かもしれないと思いました(論文をみる)。いずれにしても、感染症だけでなく潰瘍性大腸炎などの難治疾患まで、こんな「簡単な」方法で治るのであれば素晴らしいと思います。

感染症専門家Stuart Johnson氏はこの治療について、”You just have to be sure to espouse someone you’re willing to take shit from.”と言ったそうです。ところで、日本でこの「移植」をやっているところはあるのでしょうか?

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コメント

  1. あ* より:

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    批判が「体液を移植することによる肝炎やAIDSなどの感染を恐れるため」ということならば、妻帯者は奥さまの便を移植すればいいので、安倍総理もなさってみたら如何と思いました。

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