以下は、記事の抜粋です。
初期の乳がん患者に行われる、わきの下のリンパ節を広く切除する手術は、必ずしも必要でないとする調査結果を米カリフォルニア州の医師らがまとめ、2月9日、米医師会雑誌(JAMA)に発表した。米国の新規乳がん患者の2割(4万人)が影響を受け、この手術法は、日本でも普及している。今後、リンパ節の切除が最小限で済むよう治療方針の見直しが進む可能性がある。
乳がんの治療では、腫瘍に近い「センチネルリンパ節」に転移が見られた場合、拡大を防ぐため、周囲のリンパ節も切除する方法が一般的。しかし、リンパ液の流れが悪くなり、腕の浮腫など後遺症が出ることが多かった。研究チームは、この手術法の是非を調べるため、2004年までに全米115の病院で、センチネルリンパ節にがん細胞の転移が見つかった患者891人を、わきの下のリンパ節10個以上を切除したグループ(445人)と、切除しなかったグループ(446人)に分け、約6年間経過観察した。
その結果、両グループの5年後の生存率や再発率に差がなかった。参加者はいずれも初期の患者で、乳がん摘出手術、放射線治療などを受けた。
アメリカでの報道も紹介します。
Axillary Lymph Node Dissection Doesn’t Improve Breast Cancer Survival
以下は、記事の抜粋です。
センチネルリンパ節生検で転移が発見された早期の乳がん患者における脇窩リンパ節郭清は、予後を改善しないという報告が、2月9日付けのJAMA誌に発表された。
Z0011臨床試験の結果では、 腫瘍摘出手術とセンチネルリンパ節摘出術を施行後に補助化学療法と放射線治療を行った患者群と、これらの治療に脇窩リンパ節郭清を追加した患者群との間に生存率の違いが認められなかった。
筆頭著者であるGiuliano氏は、「最新の多様な治療によって、脇窩リンパ節郭清をしなくても高率に良好な局所コントロールが得られることが示された。」という。
本試験の結果は、このような乳がん患者における脇窩リンパ節郭清の正当性を否定するものである。というのは、「郭清で得られる情報は、がん転移を含むリンパ節の数だけであり、このような情報が得られても治療方針の決定に影響しないし、むしろ死亡リスクは増加する。」と研究者らは指摘する。
これまでは、センチネルリンパ節生検で転移が発見された場合、脇窩リンパ節郭清が行われていたが、最近ではその有効性に疑問が持たれたため、この「標準術式」の件数が減少していた。研究者らは、この報告によって術式が変化すれば、郭清に伴う合併症の減少とQOLの改善が生命を犠牲にすることなく達成できるという。
Z0011臨床試験は、「脇窩リンパ節郭清が省略できるか?」という問いに対して決定的な答を出すために1990年代後半に始まった。 臨床試験では891症例を、郭清する445例としない446例に無作為に振り分けて開始したが、2004年に「死亡率があまりに低い」ために中断した。そして、これ以上症例を増やしても2群間での生存率には差がないということで2010年に試験は終了した。
6年の経過観察において94例が死亡した。「郭清なし」の5年生存率は92.5%、「郭清あり」の5年生存率は91.8%で有意な差は認められなかった。「郭清なし」の5年無病生存率は83.9%、「郭清あり」の5年無病生存率は82.2%でこちらも有意差はなかった。また、患者の年齢、腫瘍のサイズ、ホルモン受容体の状態、補助化学療法の種類などは影響しなかった。
Giuliano氏は、これらの結果には近年の乳がん治療の進歩が反映されていることを強調する。具体的には、画像診断の向上、詳細な病理学的評価、外科的および放射線治療方法の改善、全身治療法の発展などをあげた。このような最新の治療が行われない場合は、これまでどおり脇窩リンパ節郭清が「標準」治療だという。
元論文のタイトルは、”Axillary Dissection vs No Axillary Dissection in Women With Invasive Breast Cancer and Sentinel Node Metastasis”です(論文をみる)。
乳がんは周囲のリンパ節(特に腋窩リンパ節)を通って全身に拡がる性質があります。センチネルリンパ節とは、がん細胞が最初に転移する腋窩リンパ節のことで、リンパ節転移を見張っているという意味で名づけられました。
以前は、手術で腋窩リンパ節を全て取り除く「腋窩リンパ節郭清」を行うことが標準的な術式でした。しかし最近は、センチネルリンパ節生検を行うことによって、腋窩リンパ節転移の有無を予測し、転移がないと判断される場合は、腋窩リンパ節郭清を省略することが一般的になっていました。
腋窩リンパ節郭清は、局所の疾病コントロールを目的として行われてきたのですが、知覚障害、感染、リンパ浮腫などの重篤な合併症を伴います。液窩リンパ節の郭清を省略した場合には、このような合併症がごく軽度ですみます。リンパ節転移があっても郭清が省略できるという本報告は早期の乳がん患者にとって極めて大きな福音だと思われます。
本臨床試験を受けて、早期(5センチ以下)乳がんの治療ガイドラインの変更が検討されるでしょう。
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