がん治療薬アバスチン、化学療法との併用で死亡リスク増加 米研究
以下は、記事の抜粋です。
ロシュのがん治療薬アバスチン(Avastin、一般名ベバシズマブ)と化学療法を併用すると、死亡リスクが増えるとする論文が、2月1日のJAMA誌に発表された。
アバスチンは血管の新生を阻害することにより、がんの進行を抑える。ただし研究では下肢および肺の血栓リスクを33%増加させることが示されており、米FDAは前年12月、「アバスチンは安全ではなく乳がんへの効果もない」との見解を示している。
米国では、アバスチンは結腸直腸がん、非小細胞肺がん、腎細胞がんの治療において、化学療法の併用が承認されている。
米Stony Brook大学医学部附属病院の研究チームは、アバスチンと致死的有害事象の関連について、過去に行われた無作為化対照試験における結果を再検討。合計で1万217人の進行性固形腫瘍患者が参加した16の臨床試験の結果を分析した。
その結果、アバスチンを使用した場合の致死的有害事象は全体で2.5%で、使用しないコントロール群の1.5倍であった。タキサンまたはプラチナ製剤を投与されている患者に限ると3.5倍に跳ね上がった。腫瘍のタイプや投与量には無関係だった。
元論文のタイトルは”Treatment-Related Mortality With Bevacizumab in Cancer Patients”です(論文をみる)。
この記事で「死亡リスク」と書かれているのは、「致死的有害事象対象(FAE, fatal adverse event)」のことだと思われます。これは、薬物が原因と思われる死亡(a death caused in all likelihood by a drug)と定義されます。
アメリカの前向き臨床研究におけるFAEの発生率は0.3%、薬物が原因と思われる死亡は病院での全死亡の4.6%だとされています。がん患者の場合、使用される薬物の毒性が強いために、他の疾患と比べてFAEの率は高いと考えられるので、リスクの軽減は重要な課題とされています。
血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)は、腫瘍の増殖促進、浸潤、腫瘍血管造成による転移などを促進するとされています。ベバシズマブ (bevacizumab)は、VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体で、VEGFの作用を阻害します。日本では、進行・再発の結腸・直腸癌、非小細胞肺癌に使用され、アメリカでは、乳がんや腎がんにも使用されます。単独使用は認められておらず、他の抗悪性腫瘍剤との併用のみが認められています。
本論文が対象とした16の臨床試験は、すべてランダム化コントロール試験ですので、ベバシズマブの投与が死亡リスクを高めることは確かなようです。
しかし、関連論文に書かれているように、パクリタキセル(タキサン系)やカルボプラチン(プラチナ製剤)にベバシズマブを追加した場合、無増悪期間の延長などのベネフィットはあるけれども死亡リスクを高めることはすでに報告されています。今回の報告は、死亡リスクが増えることを初めて見つけたのではなく、メタ解析によってこれを再確認したということだと思います。
結論として著者らは、ベバシズマブを使用する場合には、出血、消化管穿孔、白血球減少などの副作用を注意深くモニターすることが特に重要で、適切な患者の選択とGCSFの予防的投与も死亡リスクの軽減に役立つとしています。
2ヶ月程度の無増悪期間の延長というベネフィット、1ヵ月に8~25万円という薬価、化学療法薬との併用でかなり高まる死亡リスク、などなどを総合的に判断するのは非常に難しいと思いました。
関連記事
FDAの諮問委員会、アバスチン(ベバシズマブ)の乳がん治療に対する承認取り消しを進言
関連論文
Paclitaxel–Carboplatin Alone or with Bevacizumab for Non–Small-Cell Lung Cancer
コメント