急性冠症候群の非侵襲的治療において、チカグレロル(ブリリンタ®)はクロピドグレルよりも優れる

Ticagrelor versus clopidogrel in patients with acute coronary syndromes intended for non-invasive management: substudy from prospective randomised PLATelet inhibition and patient Outcomes (PLATO) trial

以下は、論文要約の抜粋です。


目的および方法:PLATO臨床試験において、非侵襲的治療が選択された急性冠症候群の患者5216人をクロピドグレル群(初回300mg、以降75mgを1日1回投与)とチカグレロル(ticagrelor)群(初回180mg、以降90mgを1日2回投与)に無作為に割り付け、有効性を比較。主要成果測定は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の主要複合エンドポイント、これら個々の要素、そしてPLATOが定義する大出血イベントとした。

結果:主要エンドポイントの発生率はクロピドグレル群(14.3%)よりもチカグレロル群(12.0%)の方が低かった。また、全死亡率もクロピドグレル群(8.2%)よりもチカグレロル群(6.1%)の方が低かった。大出血イベントは、クロピドグレル群(10.3%)とチカグレロル群(11.9%)間に有意な差はなかった。

結論:非侵襲的管理を選択された急性冠症候群の患者において、PLATO全体で得られた結果と同様に、クロピドグレルよりもチカグレロルの方が優れていた。これらの結果は、チカグレロルによるP2Y12受容体阻害が、侵襲的非侵襲的を問わず、急性冠症候群の優れた治療であることを示している。


この論文以前に、ランセットに”Comparison of ticagrelor with clopidogrel in patients with a planned invasive strategy for acute coronary syndromes (PLATO): a randomised double-blind study”というタイトルで、侵襲的治療が選択された場合の結果が報告されています(論文をみる)。また、NEJMにも”Ticagrelor versus Clopidogrel in Patients with Acute Coronary Syndromes”というタイトルで同様の報告があります(論文をみる)。

心筋梗塞や脳梗塞などでは、血管の中で血栓ができることが引き金になります。血栓形成には、血小板が周囲からの刺激に反応して凝集し、その中身を放出することが重要です。血小板から放出されるADPは、血小板の細胞膜にあるP2Y12受容体を介してさらなる血小板凝集をひき起こします。チカグレロルやクロピドクレルは、ADPのP2Y12受容体への結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制します。

クロピドクレルは、世界中で広く使われており、2008年の売り上げは約8100億円で、世界の大型医薬品売上ランキングでは、アトルバスタチン(リピトール®)に次いで第2位でした。しかし、クロピドクレルは、プロドラッグのため薬効が得られるまでに数時間かかり、緊急PCI(percutaneous coronary intervention)時に不利です。さらに、不可逆的な受容体阻害のため、バイパス術などの手術が緊急に必要な場合、出血の危険性が高いという問題点があります。

一方、チカグレロルは、プロドラッグではなく、投与した薬物がそのままの形で受容体に作用するため、投与後30分以内で抗血小板効果が得られます。また、受容体への結合が可逆的なため、中断後2-3日で血小板機能が回復するそうです。

本論文は、緊急PCIやバイパスなどの侵襲的治療だけではなく、高齢者などが対象となると思われる非侵襲的治療においても、チカグレロルがクロピドクレルよりも優れていることを示しています。抗血栓薬市場は、年間90億ドルとされていますので、よほどのことがなければ、チカグレロル(ブリリンタ®、アストラゼネカ)が“ブロックバスター”(年間売り上げ10億ドル以上)になることは間違いないと思われます。

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