カロリー制限による酸化ストレス減少と加齢性難聴予防効果はサーチュイン(Sirt3)を介する

難聴の仕組みマウスで解明 長寿に関連の酵素関与

以下は、記事の抜粋です。


摂取カロリーを抑えると、加齢に伴い聴覚が低下する「老人性難聴」になりにくくなり、それには長寿に関係する酵素がかかわっていることをマウスの研究で解明したと、田之倉東大教授らが11月18日付セル電子版に発表した。

田之倉教授によると、老人性難聴は内耳で音の刺激を電気信号に変換する「有毛細胞」や、それを脳に伝える神経細胞が加齢とともに死滅するのが原因。米国では65歳以上の40%以上が発症、日本でも増えると予想される。教授は「今回の結果は、老人性難聴の予防法や治療薬の開発に役立つ」と話している。

研究者らは、カロリー制限でマウスの寿命が延びるとの研究報告や、長寿との関係が知られる「Sirt3」という酵素を作る遺伝子に注目。生後2カ月のマウスを使った実験で、与える餌のカロリーを25%減らすと、この遺伝子を働かなくしたマウスは大きな音しか聞こえず、難聴の症状を示したという。


元論文のタイトルは、”Sirt3 Mediates Reduction of Oxidative Damage and Prevention of Age-Related Hearing Loss under Caloric Restriction”です(論文をみる)。

カロリー制限は、酵母、線虫、ハエ、蜘蛛、鳥、サルなどの多様な生物でlife span(寿命)を延長し、加齢に関係するがん、糖尿病、白内障、老人性難聴などの疾患の発症を遅らせることが知られています。さらに、カロリー制限は、モデル動物でのパーキンソン病やアルツハイマー病における神経変性も減少させます。

筆者らは、加齢による種々の症状は、ミトコンドリア呼吸鎖から生じる活性酸素(reactive oxygen species (ROS))によってひきおこされると考えているようです。確かに、ROSは主にミトコンドリアでつくられ、ROSによる損傷もミトコンドリアでおこります。

これまでにもカロリー制限は、酸化ストレスによる損傷をへらしたり酸化ストレスに対する抵抗性を高めたりすることで、酸化ストレスからタンパク質、脂肪、核酸などの分子を守っていると考えられていました。しかし、哺乳動物のカロリー制限による抗加齢作用の分子メカニズムは不明でした。

サーチュイン(sirtuins)は、NAD+依存的タンパク質脱アセチル化酵素群で、酵母などの下等生物での寿命を制御していることがわかっており、最近では多様な細胞機能や哺乳動物生理機能の制御因子として注目されています。

ヒトには7種類のサーチュインがあります。マウスでカロリー制限を行うと、酸化ストレスによる各組織のDNA損傷や加齢による難聴がおこりにくくなります。Sirt3というミトコンドリアにあるサーチュインをノックアウトしたマウスでは、このようなカロリー制限による効果が認められないことから、筆者らはSirt3がキータンパク質だと主張しています。

カロリー制限に反応して、Sirt3はミトコンドリア内でNADP+をNADPHに変換するisocitrate dehydrogenase 2 (Idh2)を脱アセチル化し、活性化した結果、NADPHや還元型グルタチオンが細胞内で増えることで酸化ストレスが抑制される、と著者らは書いています。

Sirt3を活性化あるいは誘導するような薬物を開発すれば、抗加齢薬になるとも考えているようです。現代人がこれ以上ダイエットをして寿命が延びるか、Sirt3の増加によってダイエット以上の寿命延長効果があるか、このあたりの疑問に早く答えて欲しいと思いました。

論文内容のポンチ絵(元論文より)

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