緊急事態宣言から3週間 流行状況はどう変わったか
これまでこのブログで何度も紹介している国立感染研の忽那先生の記事です。少し希望が見えてきました。以下は、記事の抜粋です。
4月7日に緊急事態宣言が出されて3週間が経ちました。緊急事態宣言の発令から3週間で新規の報告数は減っていますが、本当に感染者は減っていると言えるのでしょうか。そして今後私たちがなすべきことは何でしょうか。
患者発生数は明らかに減少に転じている
緊急事態宣言から2週間を経過した頃から明らかに新規患者数が減少しています。東京都も1日の新規発症者数が100人を切る日が出てくるなど、緊急事態宣言の効果と考えられます。
医療崩壊は進行しているのか?
筆者は都内の医療機関で流行早期から新型コロナ診療に関わっていますが、3月末から4月上旬にかけて新型コロナを診療していた医療機関にかかっていた負荷は異常なものでした。新規発症患者数は増加する一方であったのに対し、診療する医療機関が限られていたことが原因です。筆者も2回に渡って「むりぽ」「もうだめぽ」と危機的状況を紹介しました。
さて、今はどうかと言いますと、私が分かるのは都内の状況だけですが、
・新型コロナを診療する医療機関が増えた
・新型コロナ外来をするスポットが増えた
・新規患者数は減少傾向
・軽症者やPCR検査の陰性確認待ちの患者がホテルに滞在できるようになった
ということもあり、医療機関や医療従事者にかかる負荷は軽減(というか分散)されてきているように感じています。ただし、マスクやガウンなどの個人防護具が足りていないという問題は依然として残っています。
「PCRしてないだけで本当は減っていない」という意見は正しいのか
筆者の感覚的には「今はPCR検査はそれなりに足りている」という感じです。4月上旬はとにかく新型コロナ外来にたくさん受診者が訪れ、そのうち4割が陽性という時期もありました。この時期は確かに外来を設置している病院の数も少なく、PCR検査が追いつかず診断できていない症例がかなりあったのではないかと推測されます。
しかし、緊急事態宣言が出された後は新型コロナ外来の設置数も増えましたし、PCR検査陽性率も漸減し現在は10人に1人陽性がいるかというくらいまで下がっています。見逃されている症例はかなり少なくなってきていると感じます。
もともと、日本は症例捕捉率が低いわけではない
そもそも日本では見逃されている症例は海外と比べると多くないと考えられます。その根拠として、確定患者の致命率の低さ、人口あたりの死亡率の低さが挙げられます。日本は4月28日時点で致命率2%台となっており、シンガポールと比べると高いですが、欧米諸国と比較するとかなり低く抑えられています。
感染者が爆発的に増加していたニューヨーク州で3000名に抗体検査が行われたところ13.9%が陽性であったと発表されており、診断されているよりも実際にはずっと多くの感染者(約10倍、おそらく無症状~軽症)がいたことが分かります。
ハンマーを完成させるために最後まで頑張りましょう
というわけで、「検査が足りてないから減っているように見える」わけではなく、国民の皆さんの努力のおかげで、緊急事態宣言以降実際に感染者は減少傾向であると考えられます。
海外でのロックダウンのような強制力がない「外出自粛要請」だけでここまでの結果が得られたことは素晴らしいと思います。しかし、まだ安心というわけではありません。
「ハンマー&ダンス」で大事なのは、緊急事態宣言という積極的介入(ハンマー)を行うことで、実効再生算数を大きく下げることでした。
今は実効再生算数を1未満に抑えられていると考えられますが、これをできるだけ長く続け新規患者数をできるだけゼロに近づけた上で外出自粛を解除しないとこれまでの努力が無駄になってしまいます。
外出自粛が解除された後も、全てが元の生活に戻るというわけではありません。実効再生算数が1を超えないようにするために、3密を避ける、咳エチケット、手洗いなどといった持続的介入(ダンス)を行うことで、社会機能を維持しながら新型コロナの流行を抑えることが緊急事態宣言以降の目標になります。
日本で一番多くの患者がいる東京で新規患者数が減っているというのは本当にGood Newsだと思います。私も「外出自粛要請」だけでここまでの結果が得られたことは本当に素晴らしいと思います。しかし、医療資源の乏しい地方で同じような結果が出るかどうかはわかりません。また、このままでは学校も経済も文化も死んでしまいます。これらを立て直すためには、これまでと同じ外出制限だけでは不十分だと思います。
「3密を避ける」とか「接触を8割さける」などのキャッチコピーは、「円周率はだいたい3」と同じように、わかり易いようでわかりにくく、これだけではお札などから感染してしまいます。西浦さんの仮説は、あくまで公衆衛生的な仮説でエビデンスもありません。社会全体の感染が減っても個人が感染する可能性は残ります。個人が感染する確率を減らすためには、眼に見えないウイルスの存在を意識して、たとえ「3密」の状態に遭遇しても感染しないように、ポストコロナ時代に備えて、一人一人が科学的根拠を理解したうえで行動変容する必要があると思います。
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