以下は、記事の抜粋です。
片頭痛に関連した遺伝子を3個見つけたとする論文が、6月12日のNature Genetics誌(電子版)に発表された。
片頭痛は激しい頭痛を伴い、時折、曇りガラスを通して物を見ているような「前兆」が伴う。女性が片頭痛になる頻度は男性の3倍から4倍だ。片頭痛の原因は不明だが、遺伝的形質も大きな役割を担っていると考えられてきた。米Brigham and Women’s病院の研究チームは、片頭痛の遺伝的要素を探るため、女性2万3230人(うち5122人が片頭痛患者)のゲノムについて調べた。
その結果、片頭痛患者において頻繁に見られる3個の遺伝子変異(PRDM16、TRPM8、LRP1)を発見した。PRDM16とTRPM8は頭痛の中でも特に片頭痛に関連し、TRPM8は女性の片頭痛にのみ関連していた。LRP1は外界の感知と脳内の化学経路に関連していた。なお、前兆に関連する遺伝子変異は見つからなかった。
なお、こうした結果をドイツやオランダなどの小規模な研究で再現してみると、これらの遺伝子変異の継承で片頭痛リスクが約10~15%変動することが分かった。遺伝子の影響をただちに診断ツールとして使用できるほど大きな数字ではないが、生物学的に片頭痛を理解する上では重大な結果だと研究者は話している。
元論文のタイトルは、”Genome-wide association study reveals three susceptibility loci for common migraine in the general population”です(論文をみる)。
TRPM8は、寒冷刺激あるいは寒冷刺激による痛みのセンサーとして働く膜タンパク質で、感覚ニューロンと脊髄後根神経節ニューロンに発現しています。哺乳動物のTRPチャネルは、様々な刺激により活性化されるスーパーファミリーを形成しており、カプサイシン受容体として知られるTRPV1がその代表です。
TRP8は神経因性疼痛の標的だと考えられており、偏頭痛と神経因性疼痛とは共通する特徴を持っているので、TRP8はこれら2つの疾患を結ぶカギになるかもしれません。女性との関連がより強いことがわかったのは、この遺伝子を含む領域です。
LRP1は、LDL受容体と同じリポタンパク質受容体ファミリーのメンバーの1つで、脳や血管など多くの組織に発現しています。細胞外環境のセンサーとして働き、シナプス伝達の修飾にも関与していると考えられています。LRP1はグルタミン酸のNMDA受容体と共局在し相互作用があるので、最近報告されている偏頭痛とグルタミン酸ニューロンの関連を説明する分子である可能性があります。
PRDM16は骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病に関連する染色体切断点の近くに存在する遺伝子として同定されました。最近では、褐色脂肪組織発生時の転写調節における役割が注目されています。構造的には、C2H2タイプのzinc-fingerドメインを2つ持っていて、転写調節因子だと考えられています。また、SETドメインとよばれる構造も持っています。しかし、偏頭痛とPRDM16の関係はまったく不明です。
偏頭痛治療薬として広く用いられているトリプタン系薬物の標的であるセロトニン(5-HT)系の遺伝子が出てこなかったのは少し意外でした。
コメント