ピロリの除菌によって逆流性食道炎が増えるらしい

先日、川崎医大の春間先生の講演を聴きました。

エーザイによる逆流性食道炎のサイト春間先生が書かれた記事があり、講演の内容に近いのでその抜粋を紹介します。


消化管の分野では、1983年のWarrenとMarshallによるピロリ菌の発見により胃炎や消化性潰瘍に対する診療は大きく変わりました。また、胃癌の多くはピロリ感染による胃炎によることが分かりました。ピロリ菌の感染率は低下しつつあり、また、いずれピロリ菌の除菌による予防的治療が行われると考えられ、ピロリ感染に起因する疾患は減少して行きます。

一方、逆流性食道炎やNSAIDs/低用量アスピリンによる消化管障害は増加しつつあります。その背景には、高齢者人口の増加や、食生活の欧米化による脳梗塞や虚血性心疾患などの血栓性疾患が増えていることがあります。

さらに、以前はピロリ感染による萎縮性胃炎、すなわち胃酸が低下あるいは無酸の人が日本では多かったのですが、除菌の普及や感染率の低下により、非感染者、即ち、攻撃因子である胃酸を十分にもつ人が増加しつつあることによると考えています。

日々の診療で、胸やけやディスペプシアなどの上部消化器症状を訴える患者に対しては、胃癌や消化性潰瘍などの器質的疾患の除外とともに、逆流性食道炎、NSAIDsによる胃粘膜傷害、さらにFD (functional dyspepsia)を考えて下さい。


ピロリ菌は、萎縮性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどのいろいろな病気の発生や進行に関係しています。日本ヘリコバクター学会が作成した”H.pylori感染の診断と治療のガイドライン”2009改訂版では、下記の病気の治療や予防に役立つとして、病気の有無に関係なくピロリ菌感染症全体に除菌治療を推奨しています(ガイドラインをみる)。私もピロリ菌を除菌して悪いことは何もないと思っていました。

しかし、春間先生のお話を聞いて少し考えが変わりました。除菌することによって胃壁の萎縮が治癒した結果、胃酸、ガストリン、ペプシノーゲンなどの攻撃因子が増え、逆流性食道炎がおこりやすくなるそうです。高タンパクの欧米型食事もガストリンの分泌を増やすそうです。

春間先生によると高齢者の場合、ワルファリン、NSAIDSのような出血をおこしやすい薬物を服用することが多いので、逆流性食道炎からの大出血ということもあるそうで、死亡例も2例あるそうです。

このような理由で先生は、高齢者、特に上記のような出血をおこしやすい薬物の服用者には除菌を勧めないといわれました。

最後にスポンサーに敬意を表して(?)、エトドラク (Etodolac、ハイペン®)を紹介されました。エトドラクは、高齢者にも比較的使いやすいCOX2選択的NSAIDSだということです。COX2/COX1選択性が約10倍と低いためか、重篤な心血管事故は未だ報告されていないようです。この薬は、COX2が発見される前にすでに開発されていたというところがおもしろいと思いました。

私は最後に、NSAIDSで消化管出血がおこる理由について質問しました。COXの抑制によるPGE2の減少、その結果による血管収縮、その結果による胃粘膜虚血だろうということでした。

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