遺伝子組み換え:害虫駆除効果5700億円 米研究チーム
以下は、記事の抜粋です。
害虫に強い遺伝子組み換えトウモロコシがもたらした経済効果は、主産地の米北中部5州で14年間に約69億ドル(約5700億円)に上るとの分析を米ミネソタ大の研究チームがまとめ、10月8日付の米科学誌サイエンスに発表した。
米国ではメイガという害虫のために、トウモロコシで年間10億ドルの被害を出してきた。対策として、メイガを殺す毒素を作り出す遺伝子を組み込んだトウモロコシが普及。研究チームは96年からメイガの被害実態の変化を調べた。
その結果、GMトウモロコシを食べたメイガの幼虫が死んでしまうために、隣接する非GMトウモロコシ畑でも害虫の発生が抑えられていることが分かった。被害の軽減額は69億ドルで、このうち約6割が非GM畑での効果だった。
元論文のタイトルは、”Areawide Suppression of European Corn Borer with Bt Maize Reaps Savings to Non-Bt Maize Growers(殺虫毒素を産生する遺伝子組換えトウモロコシ栽培によるメイガ(European Corn Borer)駆除は、隣接した非遺伝子組換えトウモロコシ栽培にも経済的利益をもたらす)”です(論文をみる)。
論文によると、細菌Bacillius thuringiensis (Bt)由来の殺虫性タンパク質を発現するように遺伝子操作されたトランスジェニックトウモロコシ(Btトウモロコシ)は、米国の農業に広く受け入れられています。既に導入から10年経過し、耐性昆虫も現われていないようです。2009年には、米国で2220万ヘクタール以上に植えられ、収穫の63%を占めたそうです。
興味深いのは、主な収益が非Btトウモロコシによってあげられている点です。その理由は、Btトウモロコシを隣接して栽培することにより害虫の防除効果を得ながらも、価格の高いBt種子を購入しないですむためだそうです。これが、農家がBtおよび非Btトウモロコシを合わせて栽培することの経済的インセンティブになっています。
米国政府も、Btトウモロコシ栽培農家に対して害虫のBt毒素への抵抗性獲得を遅らせる目的で非Btトウモロコシという「避難地」を作るよう要請しています。初めからこのような混合栽培のメリットを意識していたのかどうかわかりませんが、耐性昆虫の出現を抑制しながら経済効果もあげるというのは良いアイディアだと思います。
Bt毒素は、昆虫の消化管内で活性化され消化管の細胞を破壊します。この際、Enterobacterのような消化管内に普通に存在している他の細菌がBtによって弱められたバリアーを突破して血リンパ中で増殖することが殺虫活性の本質であるといわれています(論文をみる)。
Btトウモロコシとメイガ(PLANT BREEDING VERSUS PLANT GENETICSより)
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