Lyn is a redox sensor that mediates leukocyte wound attraction in vivo
以下は、論文要約の抜粋です。
組織損傷は速やかに白血球を動員する。創傷と腫瘍(「治癒していない創傷」の一種)は、NADPHオキシダーゼによって過酸化水素(H2O2)を産生する。この細胞外H2O2は、白血球、特に自然免疫の最初の応答細胞である好中球の損傷組織への動員を仲介する。
しかしながら、好中球が創傷部位におけるレドックス状態を検出するためのセンサーは知られていない。今回我々は、Srcファミリーキナーゼの一つLynが、創傷部位へ好中球を誘導するレドックス・センサーであることを明らかにした。
好中球中のLynの活性化は、損傷に由来するH2O2に依存しており、Lynを阻害すると好中球の創傷部位への動員は低下する。in vitroでの解析により、Lynの466番目のアミノ酸残基であるシステインC466が、酸化によるLynの直接的な活性化を引きおこすことがわかった。さらに、in vivo実験でも好中球の創傷応答と下流のシグナル伝達においてLyn C466の重要性が示された。
これは、多細胞生物において白血球を創傷部位へ誘導する生理的レドックス・センサーの初めての発見である。
この論文をみて、中国の雲南省から来たという他研究室の留学生と話した時のことを思い出しました。DT40というニワトリのB細胞由来の細胞で、SykというSrcファミリーキナーゼをノックアウトすると、過酸化水素刺激での細胞内カルシウムの上昇が抑制されるという結果を話してくれました。
その後発表された論文を調べてみたら、彼と話したのは15年も前のことでした(論文をみる)。このように、その頃からH2O2がSrcファミリーキナーゼを活性化することはわかっていたようなので、レドックス・センサーの発見にはかなり時間がかかったということのようです。DT40でも、H2O2がLynを活性化し、Lyn→Syk→PLCγ→IP3→Ca↑となるのだと思います。
H2O2がLynの466番目のシステインを酸化し、その結果Lynの構造が変化して活性化されるという話はもっともらしいのですが、S-S結合を作ってLynがオリゴマー化するのではないことがわかっているだけで、分子レベルでLynがどのように活性化されるかは、まだわかりません。この段階で掲載されたのは、ラッキーだと思います。
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