カレトラ(抗HIV薬)に治療効果は証明されず 新型コロナ治療薬 候補薬(3月20日時点)
以下は、記事の抜粋です。
新型コロナの治療薬として国内でも早期から使用されていたカレトラ(抗HIV薬)の有効性に関する大規模な臨床研究の結果が発表されました。その結果と、現時点でのその他の候補薬についてご紹介します。
新型コロナウイルス感染症の治療薬候補のまとめ(筆者作成)
1) カレトラ
これまで日本国内で新型コロナウイルス感染症の症例に最も多く使用されているのはカレトラでした。カレトラはロピナビルという薬剤とリトナビルという薬剤の合剤であり、HIV感染症の薬剤です。以前からこのカレトラは同じコロナウイルスによる感染症であるSARSやMERSに有用かもしれない、と言われていました。
そのため、今回の新型コロナウイルス感染症の流行が始まった当初からカレトラは臨床試験として中国で患者さんに投与されていますし、日本国内でも国立国際医療研究センターなどの医療機関で複数の患者さんに使用されています。
先日、カレトラの治療効果についての臨床研究の結果がNew England Journal of Medicineに掲載されました。
199人の新型コロナ患者を無作為にカレトラを14日間内服する群(99人)と標準治療(カレトラを内服しない)群(100人)とを比較したところ、臨床的改善が得られるまでの時間に差はなかった、との結果でした。つまりカレトラを飲むことによっても新型コロナ感染症の経過に差はなかったという結果です。
3%くらいの致死率の低い感染症なので、生存率を比較するには研究に参加する患者数がたくさんいなければなりません。その代わりに臨床的改善という指標を用いていますが、これも当初予定されていた160人では症例数が足りないということで最終的に199人を登録して有意な差はないという結論になっています。新型コロナ患者にカレトラが使用される機会は減っていくことが予想されます。
2) レムデシビル
レムデシビルは元々はエボラ出血熱の治療薬の候補としてこれまで他の臨床試験で使用されていた薬剤です。現在もコンゴ民主共和国で流行が続いているエボラ出血熱の症例に対して、ランダム化比較試験という形でレムデシビルが投与されていました。
しかし、結果としてはレムデシビルはMAb114、REGN-EB3という2つの薬剤に治療効果が劣ることが分かり、現在はエボラ出血熱への投与は中止されています。このレムデシビルが新型コロナウイルス感染症に有効である可能性が出てきています。
培養細胞に新型コロナウイルスを感染させ、48時間後のウイルス増殖の抑制効果を見たところ、レムデシビルで高い阻害効果が観察されたというものです。また、アメリカで最初に新型コロナウイルス感染症と診断された症例にもこのレムデシビルは投与されています。この患者さんはその後回復していますが、それがレムデシビルの効果によるものかは分かりません。
官邸のホームページに掲載された資料によりますと、国内では3月からこのレムデシビルの国際共同医師主導治験が開始されるとのことです。すでに中国でも臨床研究が行われており、4月には結果が出る見込みです。
3) アビガン
アビガン(薬剤名:ファビピラビル)は富士フイルム富山化学が開発した薬剤です。日本国内ではインフルエンザ薬として承認されていますが、催奇性があることから新型インフルエンザなどが発生した場合などに備えて備蓄されており、普通のインフルエンザの患者さんに使用されることはありません。
RNAポリメラーゼという酵素を阻害することから、インフルエンザ以外のRNAウイルスにも幅広く効果が期待できる薬剤と言われています。
本薬剤もレムデシビルと同様、エボラ出血熱に使用されたことがあります。新型コロナウイルスに対する効果はどうかと言いますと、先程のレムデシビルのウイルス阻害効果を見た研究ではこのアビガンも評価されており、実験室レベルでは一定の阻害作用は確認されています。
まだ論文にはなっていませんが、カレトラ群と比較してファビピラビル投与群でウイルス消失時間が短縮された、という80人規模の臨床研究がまもなく掲載されると聞いています。
4) クロロキン
これらの薬剤以外に、中国ではクロロキンという抗マラリア薬が使用されています。中国の「COVID-19診療ガイドライン(6版)」ではクロロキンが治療薬の選択肢として記載されています。日本では現在は未承認薬の扱いとなっています。
クロロキンと類似した構造を持つヒドロキシクロロキン(プラケニル)は国内では全身性エリテマトーデス(SLE)などに使用されていますが、これはヒドロキシクロロキンが抗炎症作用、免疫調節作用を持つためです。
実験室レベルでの新型コロナウイルスの抑制効果が示されています。日本国内でもヒドロキシクロロキンが使用された事例があり日本感染症学会のHPに「ヒドロキシクロロキンを使用し症状が改善したCOVID-19の2例」として掲載されています。
2例はいずれも回復したとのことですが、まだ投与された症例数が十分ではなく、中国での成績も発表されていない現時点ではヒトでの治療効果は不明です。
5) シクレソニド
日本ではシクレソニド(商品名:オルベスコ)という吸入ステロイド薬を使用し改善した3例が報告されています。シクレソニドは気管支喘息などに用いられる吸入ステロイド剤ですが、報告によると、シクレソニドがSARS-CoV-2に対し強い抗ウイルス活性を有することが示されたとのことです。
3例報告であり、シクレソニドの新型コロナウイルス感染症に対する効果はまだ明らかではありませんが、全身投与ではなく局所に作用する吸入ステロイド剤であることから副作用が少なく、もし有効であるとすれば有望な治療薬となり得ます。
6) 回復者血漿
回復者血漿というのは感染症から回復した人の血液の一部を、今その感染症で苦しんでいる患者さんに投与するものです。回復した人たちは新型コロナウイルスに対する抗体、つまり免疫を持っていることになります。この新型コロナウイルスに作用する免疫グロブリンを投与することが回復者血漿を使用する目的になります。
解決すべき課題として、回復者からの血漿採取の手順の整理、血漿中に新型コロナウイルスが血液中に含まれないことの確認、抗体が十分に産生されていることを確認する方法の検討、輸血と同等の感染症スクリーニングなどがあり、容易に行うことができない治療法です。
7) トシリズマブ
トシリズマブ(商品名アクテムラ)はヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体で、IL-6というサイトカインの作用を抑制し免疫抑制効果を示す分子標的治療薬です。まだ論文にはなっていませんが、プレプリントの状態で臨床研究のデータが閲覧可能になっています。
これによると、20人の患者に対して通常の治療に加えてトシリズマブを投与した結果、必要な酸素の量が減ったり、肺炎の画像所見が改善したとのことです。しかし、この研究は対象となる群がありませんので、この研究をもってトシリズマブの有効性は評価できません。
8) ナファモスタット、カモスタット
呼吸器上皮に発現している宿主のタンパク分解酵素のひとつであるTMPRSS2は、新型コロナウイルスの肺炎発症に関与している可能性が示唆されています。このTMPRSS2に対して活性のあるセリンプロテアーゼ阻害剤カモスタットが、TMPRSS2細胞への新型コロナウイルスによる侵入を阻害したという報告がCell誌に掲載されています。
東京大医科学研究所もナファモスタットが新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性があると発表しています。記事によると、人での実際の効果については国立国際医療研究センターなどと近く臨床研究を始める方針とのことです。
この他、アルビドル、インターフェロンなどが中国では使用されていますが、まだ確実に有効と言えるものではありません。
また新型コロナウイルス感染症から治癒した人の血液中にある「新型コロナウイルスに対する抗体」を抽出した回復者血漿と呼ばれる血液製剤も有効である可能性がありますが、今後の評価を待つ必要があります。
これらの薬剤の治療効果は現時点では不明、大事なのは予防です。これらの薬剤は治療効果がある「かもしれない」というものであり、これらを使うことで新型コロナウイルス感染症が治ることを保証するものではありません。
治療効果があるのか、そして安全性についても問題がないか現時点では分からないため、それを検証するために今後臨床試験が行われるわけです。新型コロナウイルス感染症は、ほとんどの方が自然に治癒する感染症ですので、これらの薬剤は特に基礎疾患のある方や高齢者など重症化するリスクの高い方、あるいは重症の患者さんを対象として使用されるべきものです。
昨日紹介したアルビドール(ウミフェノビル)については、名前が紹介されただけです。また、中国の知人によると重症の場合はγ‐グロブリンを使うそうですが、これについては触れられていません。最大の患者数を経験している中国のデータをもっと知りたいです。
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