以下は、記事の抜粋です。
インターネット通販で手軽に受けられる遺伝子検査が増えている。
がんやアルツハイマー病のリスクが分かるとするものや、子供の「才能」が分かるとうたうものまである。ただ、科学的根拠は必ずしも明確でなかったりするものも多く、学会や専門医らは「遺伝情報は血縁者にも影響を与える重大な個人情報。専門家のカウンセリングなしの検査は危険」と警鐘を鳴らしている。
経済産業省の調査では、遺伝子検査を行う業者は330で、インターネット通販やクリニックなどで販売され、肥満のタイプや生活習慣病のリスクのほか、がんやアルツハイマー病のリスク判定をうたうものなどがある。健康食品などの販売につなげる例や、エステメニューの提案に利用するエステサロンもある。
子供の「才能」がわかるとするものも登場。知性、運動、芸術など6分野の「才能」がわかるという商品で、綿棒でほおの内側の粘膜をぬぐい取ったものを開発元へ送り、遺伝情報を解析した結果を受け取る。知性分野なら、記憶力、理解力など6能力について、「優秀」「良好」「一般」「不利」の4段階に評価されて戻ってくる。料金は5万8000円。
販売会社の説明会を聞いた北里大学の高田教授は、「説明文書を読んでも、遺伝子の機能の説明と、それが人間の潜在能力にどう影響するかという解釈に非論理的な飛躍がある」と疑問を呈する。
遺伝子検査ビジネスには「科学的根拠が十分でないものや結果の解釈が確立されていないものも少なからずある」(高田教授)という。日本人類遺伝学会は注意を呼びかける勧告を発表し、公的機関の監督を求めているが、規制はないのが現状だ。
この記事をよむと、インターネット通販で手軽に受けられる遺伝子検査は科学的根拠のないものばかりのように受けとられるかもしれません。「子供の才能」については、私も良くわかりません。
しかし、認知症、肥満、薄毛などの遺伝子検査は、ある程度確立した一塩基多型(SNP、スニップ)をPCR法という遺伝子増幅を用いて調べていることが多いようです。以下に科学的根拠のあると思われるものを紹介します。ただし、どの程度のエビデンスがあるかは知りません。
認知症の場合、ApoEというアルツハイマーとの関連性が強く示唆されている遺伝子、PAI-1という脳血栓の発生と関連する遺伝子、などのSNPを調べます。
肥満の場合、β2ARという脂肪細胞の代謝に関与する遺伝子、β3ARという中性脂肪の分解に関与する遺伝子、UCP1というミトコンドリアたんぱく質をコードし、皮下脂肪と関連する遺伝子を調べます。
薄毛の場合は、アンドロゲン受容体遺伝子中のCAGリピート数やGGCリピート数を調べて、受容体のポリグルタミンやポリグリシンの長さを調べます。長い方がlow risk、短い方がhigh riskだそうです。短い場合にはフィナステリド(finasteride)が有効だとされています。
記事にもありますが、綿棒でほおの内側の粘膜をぬぐい取るだけで、SNPや特定の遺伝子配列を調べることができます。抗がん薬の有効性を調べる遺伝子検査も原理はほとんど同じです。
将来的には、全ゲノム配列を決定するサービスも含めて、さらに多くの遺伝子検査がインターネット通販市場に出てくるのではないかと思います。関連記事で紹介しましたが、心血管リスクを早期に知ってその対策を考えることはリーズナブルです。しかし、保険適応を受けられるとは思えません。
このように、保険適応されないような遺伝子検査でも、有益なものはあるので、早く信頼性の高い企業や医療機関がこの業界に参入してくれることが望まれます。
関連記事
個人全ゲノム配列に基づく臨床アセスメント:遺伝的に心血管リスクの高い40歳男性患者のケース
The industry behind direct-to-consumer gene tests needs to establish guidelines for its wares. アメリカでは、消費者直販タイプの遺伝子検査産業(direct-to-consumer (DTC) genetic-testing industry)に対する新しい規制をFDAが考えているようです。
コメント