以下は、記事の抜粋です。
新生児100人に1人の割合で生じるとされる脳の機能障害「自閉症スペクトラム」が、複数の遺伝子のコピーミスから起きる可能性があることが、英オックスフォード大などの研究で分かった。症状や問診をもとにしてきた診断法の改善につながる成果で、6月10日、ネイチャー(電子版)に掲載された。
自閉症スペクトラムは、他者とのコミュニケーションや社会性の発達に遅れが見られる。自閉症のほか、知的障害がなく特異な才能を発揮する「アスペルガー症候群」なども含み、症状の多様さから「スペクトラム(連続体)」と呼ばれる。
チームはヨーロッパ人の患者996人と健康な1287人のゲノムを比較。その結果、父と母から一つずつ受け継ぐべき遺伝子が一つ足りなかったり、三つになるコピーミスが、患者は健康な人より平均19%多く、健康な人ではめったに起きない遺伝子で起きていた。コピーミスは「コピー数多型」と呼ばれ、健康な人では病気のかかりやすさや薬の効き方の個人差として表れる。チームは、鍵となる遺伝子の複数のコピーミスが発症につながるとみている。
元論文のタイトルは、”Functional impact of global rare copy number variation in autism spectrum disorders”です(論文をみる)。
記事で「コピーミス」と書かれているのは、copy number variation (CNV、コピー数多型)とよばれるものです。通常ヒトの細胞には遺伝子は二個(2コピー)あり、一つは父方、もう一つは母方に由来するというのが定説となっています。
しかし近年、個人によっては一つの細胞あたりある遺伝子が一個(1コピー)しかなかったり(deletion、欠失)、あるいは3個(3コピー)以上存在する(duplication、重複)といった遺伝子の数の個人差があることがわかりました。これをCNVとよびます。
CNVは、一塩基多型(SNP)と同様、正常人でも数多くみつかりますが、疾患感受性、薬剤感受性などを含めヒトの形質差に広く関与している可能性があると考えられています。
本論文では、自閉症スペクトラム患者で認められる新規のCNV遺伝子として、SHANK2、SYNGAP1、DLGAP2、X染色体のDDX53-PTCHD1座位、Ras経路遺伝子などが報告されています。しかし、自閉症スペクトラムと特定の遺伝子異常の関係が1対1で明らかにされたわけではありません。
どうして「copy number variation、コピー数多型」を「コピーミス」と訳すのでしょうか?記事をおもしろくしようとする努力が、病気に対する偏見を助長する結果にならないことを祈ります。
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