以下は、記事の抜粋です。
体内でインスリンの分解を防ぎ、糖尿病の治療を大幅に効率化できる物質が発見された。膵臓で作られたインスリンは、約半分が肝臓ですぐに分解され、体中の細胞に到達してからもさらに分解される。
今回発見されたIi1と呼ばれるインスリン分解酵素(IDE)阻害薬は、肝臓と細胞の両方で分解を抑制する。従って、糖尿病の治療に使われるインスリンを体内に長くとどめ、血糖値を下げる効果を長続きさせると考えられる。
IDEは60年も前に見つけられており、タンパク質分解酵素の阻害薬の発見でこれほど長期間を要した例は珍しいという。
元論文のタイトルは、”Designed Inhibitors of Insulin-Degrading Enzyme Regulate the Catabolism and Activity of Insulin”です(論文をみる)。
以下は、論文要約の抜粋です。
背景
インスリンは、グルコース代謝と糖尿病の中心的役割を果たすペプチドホルモンである。原理的には、インスリンの分解酵素(insulin-degrading enzyme (IDE))を阻害することで、その活性を強めることができるはずである。このIDEは、構造的にも進化的にも他とはっきりと区別される亜鉛金属プロテアーゼである。IDEの薬理学的阻害は、糖尿病治療において魅力的なアプローチの一つだが、1950年代から今まで選択的かつ強力な阻害薬は見つかっていない。
方法と結果
コンビナトリアル・ペプチド混合物の中からIDE阻害薬を探索した。得られた化合物は、既存の阻害薬と比べて強力で毒性はなく、他の定型的亜鉛金属プロテアーゼよりもIDEに対して選択的であった。IDE-阻害薬複合体の結晶構造解析により、IDEの「閉じた」不活性コンフォーメーションを安定化するという、新しい活性阻害様式が明らかになった。さらに、研究者らは、IDEを薬理学的に阻害すると細胞に取り込まれたインスリンの分解も減少し、インスリンシグナル伝達が増強することを示した。
結論
今回発見された阻害薬は、IDEあるいは類似の非定型亜鉛金属プロテアーゼを、強力かつ選択的に阻害する最初のものである。IDEの活性部位の特徴的な構造とこれら阻害薬による独特な阻害様式は、特異的な阻害薬を開発できる可能性を示唆している。これらの結果は、IDE阻害薬が糖尿病治療において価値があるという長年の見解をサポートする。
IDE阻害薬は、糖尿病治療の新しい可能性だと思いますが、今回発見されたIi1などがすぐに臨床応用されるとは思えません。というのは、これらの薬物がペプチドだからです。つまり、経口投与など臨床応用には不向きです。
実際、本論文の実験はすべてイン・ビトロあるいは培養細胞レベルで、動物での血糖降下作用は確認されていません。
また、IDEノックアウトマウスは、予想とは逆に糖尿病を発症することが既に知られています。また、IDEはインスリン以外にもAβや心房性利尿ペプチドを分解することが知られており、IDEノックアウトマウスでは、アミロイドβタンパク(Aβ)が脳に蓄積することも知られています。
これらのネガティブな事実を考えると、まだまだ先は長そうです。
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