吃音は、発語時に言葉が連続して発せられたり、瞬間あるいは一時的に無音状態が続くなどの言葉が円滑に話せない疾病。WHOの疾病分類「ICD-10」では、吃音は、「会話の流暢性とリズムの障害とされます。成人では0.8 – 1.2%が吃音者だそうです。
Mutations in the Lysosomal Enzyme–Targeting Pathway and Persistent Stuttering
以下は、要約の抜粋です。
背景:吃音症の一部には遺伝的素因が認められ、これまでの研究で12番染色体上のマーカーとの連鎖がみつかっていた。
方法:非症候性の吃音者が多発するパキスタンの近親婚家系において、12q23.3領域の染色体を解析した。
結果:1つの大きな近親婚家系において、GlcNAc-phosphotransferase (GNPT [EC 2.7.8.15 [EC] ])のα/β触媒サブユニットをコードする遺伝子(GPNTAB)にミスセンス変異(G3598A)を発見した。研究グループは、GNPTのγサブユニットをコードする遺伝子(GPNTG)の変異によっても吃音がおこることを発見した。さらに、N-acetylglucosamine-1-phosphodiester alpha-N-acetylglucosaminidase (NAGPA)遺伝子においても吃音に関連する遺伝子変異を発見した。
これらの酵素はすべて、様々な加水分解酵素をリソゾームとよばれる細胞内小器官へ輸送するための「マンノース6リン酸シグナル」を付加するのに必要な酵素である。この経路の欠損は、骨、結合組織、神経組織に症状を示す「ムコリピドーシス」と呼ばれるリソゾーム貯蔵障害をひきおこす。
GPNTAB遺伝子のG3598A変異では、魚からヒトまで良く保存された1200番目のアミノ酸、グルタミン酸がリジンに置き換わります。酸性アミノ酸から塩基性アミノ酸への置換なので酵素の性質はかなり変化すると思われます。
同じGPNTABとGPNTGの変異によって、I-細胞病(ムコリピドーシスII)と偽Hurlerポリジストロフィー(ムコリピドーシスIII)が生じます。前者は、早期発症で重度の精神運動発達遅延、粗な顔貌や多発性骨異常を伴い、後者は、より遅い発症の軽症タイプです。
リソゾームと吃音がどうつながるのかは、まったく不明です。1つの発見がさらに大きな疑問を生む良い例ですね。
本研究によって、遺伝子変異をもつ子供に対して早期から言語治療を開始すれば吃音を克服できる可能性がでてきました。吃音が気分的な問題や社会的な問題だけでおこるという理解は誤りです。
緊張するから「どもる」のではなく、「どもる」から緊張するのだと思います。
有名な吃音者としては、Marilyn Monroe、Winston Churchill、Sir Isaac Newtonなどが知られています。
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