ビスホスホネート(骨粗鬆症治療薬)の作用メカニズムについて

骨粗鬆症とは、加齢、閉経、カルシウム摂取不足、運動不足などが原因で骨のカルシウム量が減少し、骨がスポンジのように脆くなり骨折しやすくなる病気です。骨粗鬆症の日本での患者数は、1000万人を超え、70歳を超えた女性の約50%が骨粗鬆症だと推定されています。

骨粗鬆症は、初期には自覚症状がなく、骨折してはじめて気がつくことも多いようです。身長の低下は、骨粗鬆症との関連が強く、2cm以上身長が低くなれば、間違いなく脊椎の骨折が起こっているそうです。また、転倒での大腿骨頭骨折などは、寝たきりの原因になります。

骨粗鬆症治療薬には、ビスホスホネート製剤(BP)・女性ホルモン製剤・活性化ビタミンD・選択的エストロゲン受容体作動薬などがありますが、BPが最も有効です。BPを1年間飲むと、平均で6-7%骨量が増え、骨折の発生率は約半分になったという報告があります。

BPはカルシウムと非常に結合しやすく、胃の中にカルシウムが多いと、吸収されずにそのまま排泄されてしまいます。また、体内に吸収されると大半がカルシウムの多い骨組織に集積します。BPが特異的に骨吸収を抑制するのは、この集積のためだと思われます。

骨組織に集積したBPは、エンドサイトーシスによって破骨細胞に取り込まれます。取り込まれたBPが破骨細胞の機能を抑制するメカニズムについては、以下の2つのメカニズムが考えられています。

BPは、その構造によって三つの世代に分けられます(構造をみる)。つまり、第一世代:側鎖に窒素を含まない(クロドロネート、エチドロネート)、第二世代:側鎖に窒素を含む(パミドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート)、第三世代:側鎖に環状窒素を含む(ゾレドロネート、ミノドロネートなど)の3つに分類されます。

窒素分子を持たない第一世代の薬物は、ATP類似体として代謝され、ATP代謝を阻害し、破骨細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導すると考えられています。

現在、骨粗鬆症治療に用いられているのは、ほとんどが側鎖に窒素を含む第二あるいは第三世代のBPです。これらは、第一世代の100倍以上の骨吸収抑制作用を示し、悪性腫瘍の骨転移にも用いられます。

2003年Rogersらは、側鎖に窒素を含むBPの標的分子は、メバロン酸代謝経路のファルネシルピロリン酸(FPP)合成酵素であることを示し、この酵素の阻害によって、Ras、Rho、Rabなどの低分子量GTP結合タンパク質のプレニル化が阻害されることが、BP投与による破骨細胞機能抑制の原因であると提唱しました。

メバロン酸経路には、高コレステロール血症に対して用いられるスタチンの標的分子として有名なHMG-CoA還元酵素があります。FPP合成酵素は、そのすぐ下流にあり、コレステロール合成にも必須です。そのためか、BPで血中コレステロール濃度が低下するという報告もあるようです。

この結果から考えると、スタチンはコレステロール合成阻害だけではなく、プレニル化も抑制するはずです。スタチンの効果の中には、血中コレステロールの低下ではなく、プレニル化の阻害によるものもあるような気がします。

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