Down’s syndrome suppression of tumour growth and the role of the calcineurin inhibitor DSCR1(ダウン症候群の腫瘍増殖抑制とカルシニューリン阻害因子DSCR1の役割)
正常人は、常染色体を2つずつ持っていますが、ダウン症の患者は、21番染色体を3つ持っています。したがって、Dscr1遺伝子(Down’s syndrome critical region-1をコードする)などの21番染色体に存在する遺伝子は、ダウン症患者で、1コピー分発現が多いと考えられます。
さらに、これらの患者では統計的に、いくつかの固形腫瘍の発症率が低いことが知られています。
Baekたちは、Dscr1遺伝子を1コピー余分にもつマウスを作成し、Dscr1の若干の発現増加を示しました。増加したDscr1は、21番染色体にある別の遺伝子Dyrk1aと共に働いて、カルシニューリン経路の活性を抑制し、その結果、血管新生と腫瘍増殖を顕著に抑制することを明らかにしました。
これらのデータは、ダウン症患者でのがん発生率低下のメカニズムを明らかにし、またカルシニューリン経路とその調節因子であるDscr1とDyrk1aが、ヒトがんの治療における有望な標的であることを示唆しています。
上記のカルシニューリン経路とは、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)-カルシニューリン-NFATc1で、Dscr1はカルシニューリン、Dyrk1aはNFATc1を抑制し、VEGFによる血管内皮細胞の増殖を抑制します。
ベバシズマブ(商品名:アバスチン)は、VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体で、「血管新生抑制」作用を持つ抗がん薬です。また、タクロリムス(FK506)やシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬は、免疫抑制薬として用いられ、臓器移植に必須の薬です。
私が調べた限りでは、カルシニューリン阻害薬には、抗がん作用はみつかっていません。しかし、ベバシズマブも単独では全く効果がなく、他の抗がん薬と併用してはじめて効果があるとされているので、カルシニューリン阻害薬にもこのような効果が期待できるかもしれません。
コメント
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勉強になりました。有難うございます。