以下は、私が2009年に書いた「高血圧と前立腺肥大の治療に用いられるα1受容体遮断薬」という本ブログ記事です。
交感神経終末の神経伝達物質ノルアドレナリンの受容体は、薬理学的にα受容体とβ受容体に大別されます。α受容体はシナプス後膜にあるα1受容体とシナプス前膜にあるα2受容体に別けられます。さらに、α1受容体には、異なる遺伝子でコードされるα1A、α1B、α1Dの3種類があります。これらの3種類は、組織分布や薬物に対する親和性が異なります。
α1受容体遮断薬(ブロッカー)は、以下に説明するように、受容体サブタイプに対する親和性のちがいによって、高血圧と前立腺肥大という、まったく異なる病態の治療に用いられます。
α1受容体サブタイプの分布と機能との関係
α1A:前立腺部尿道に高分布・・・尿道抵抗との関連が大きい
α1B:血管に多く分布・・・血圧との関連が大きい
α1D:膀胱平滑筋に分布・・・排尿筋収縮と膀胱刺激状態と関連がある
前立腺には、精液を押し出したり、膀胱に逆流しないようにする括約筋があり、交感神経刺激によって収縮し尿道を狭くします。したがって、α1A受容体をブロックすると、尿道が広がります。
血管の平滑筋にはα1B受容体が多く分布しており、交感神経終末から遊離したノルアドレナリンがこの受容体に結合すると、血管が収縮します。α1B受容体をブロックすると、血圧が下がります。
排尿障害症状のみの場合は、α1A受容体ブロックだけでも有効ですが、夜間頻尿などの、膀胱刺激障害がある場合は、α1D受容体のブロックが効果的です。
各種薬物のα1受容体サブタイプへの親和性
以下のデータは、タムスロシン(ハルナール®)、ナフトビジル(フリバス・アビショット®)、プラゾシン(ミニプレス®)のα1受容体サブタイプへの親和性を比較したものです。上記の分布や機能と合わせて考えると、プラゾシンは降圧作用が強く、排尿障害のみの場合はタムスロシン、膀胱刺激障害がある場合は、ナフトビジルが有効であることがわかります。
シロドシン(ユリーフ®)は、カプセルが2006年に、錠剤が2009年に(、OD錠が2015年に)発売されていましたが、上の記事を書いたときには不勉強で知りませんでした。
以下の表と図は、シロドシン(ユリーフ®)のα1受容体サブタイプへの親和性と特異性を示したものです。
まとめると
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アルファ1受容体選択性 α1A α1D
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ユリーフ(シロドシン) ++++ -
ハルナール(タムスロシン) +++ +
フリバス・アビショット(ナフトビジル) + +++
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ということで、シロドシン(ユリーフ®)は、市販の薬の中で最もα1A受容体に対する特異性(選択性)が高い薬であることがわかります。現在は、先行のハルナールやフリバスを抜いて、日本市場での前立腺肥大に伴う排尿障害改善薬の売り上げナンバーワンになっているそうです。
これは、シロドシン(ユリーフ®)の臨床試験の結果が良いことに加えて、血圧(α1B受容体)に対する副作用がタムスロシン(ハルナール®)やナフトビジル(フリバス・アビショット®)では無視できず高用量が使いにくいため、さらに、ナフトビジル(フリバス・アビショット®)のウリであるα1D受容体阻害作用を介する膀胱刺激症状や夜間頻尿の改善は、昨日紹介したミラベグロン(ベタニス®)や抗コリン薬などでも改善されることなどが理由と思われます。
α1A受容体は尿道平滑筋だけではなく、前立腺組織中の平滑筋細胞にも多く存在するそうです。「逆行性射精」という副作用が、シロドシン(ユリーフ®)に多くみられるのも、よく効く(尿道を開く)ことの裏返しだと思います。私は、キッセイや第一三共からお金をもらってこの記事をいるわけではありません。
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