新薬から直接的な恩恵を受ける人々と、新薬への資源の再配分により健康をあきらめる人々との間にトレードオフが存在し、イギリスでは公衆衛生的には損失の方が大きい

英国の過去20年の新薬導入、公衆衛生には損失大きい?
以下は、記事の抜粋です。


英国では、国立医療技術評価機構(NICE)による新薬に関する推奨は、健康増進をもたらす可能性がある一方で、その資金を代替治療やサービスに利用できなくなるため、犠牲となる健康が生じる可能性がある。著者は、「今回の結果は、新薬から直接的な恩恵を受ける人々と、新薬への資源の再配分により健康をあきらめる人々との間に、トレードオフが存在することを浮き彫りにしている」とまとめている。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのHuseyin Naci氏らの研究グループは、2000~20年にNICEの公開データベースに公表されている、英国における新薬の技術評価を特定した。承認から5年以内の製品(2000~20年の間に承認された183品目)を調査対象として、医薬品名、評価された適応症、医薬品およびその評価の特徴に関するデータを収集した。

新薬の費用対効果を増分費用効果比(ICER)で、健康上の利益を質調整生存年(QALY)として算出。また、イングランドで2000年1月1日~2020年12月31日の間に販売された新薬の総量に関する独自のデータを用い、NICEが推奨する新薬を投与された患者数を推定した。

各評価の健康への影響は、NHSで新薬を用いた場合に得られる獲得QALYと、同じ資金を他のNHSサービスや治療に再配分した場合に理論的に得られるQALY推定値の差分から算出した。新薬の増分費用をNHSの支出による健康機会費用で割ることにより、逸失QALY(forgone QALY)を算出した。

NICEが推奨した新薬を使用した患者1,982万人において、新薬の使用により推定375万QALYが追加されたが、新薬の使用によるNHSの追加費用は751億ポンドと推定された。同じ資源をNHSの既存サービスに用いた場合、2000~20年の間に500万QALYが追加で得られたと推定された。全体として、NICEが推奨した薬剤による累積的な公衆衛生への影響は負であり、純損失の発生は約125万QALYであった


元論文のタイトルは、”Population-health impact of new drugs recommended by the National Institute for Health and Care Excellence in England during 2000-20: a retrospective analysis.(2000 年から 2020 年にかけてイギリスの国立医療技術評価機構が推奨した新薬の人口健康への影響: 後ろ向き分析)”です(論文をみる)。

細かい計算はあまり理解できませんが、有名なロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで行われた研究で査読の厳しいLancet誌に掲載されている論文なので、書かれている結果や推論は正しい可能性が高いと思います。イギリスの社会格差が大きいための結果かもしれませんが、治療法のない病気の薬を開発するという、普通に考えると社会に貢献しそうなことが、かえって犠牲になる健康を増やしているという衝撃的な話です。

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