アルツハイマー病に効果のあるシロスタゾール?―1研究者の誇大宣伝活動の片棒を担ぐNHK

アルツハイマー病に効果のあるシロスタゾール
批判ですので、記事の全文を紹介します。


認知症の進行を食い止める可能性のある薬が今年2月、日本で見つかりました。きっかけは淡路島で行われた調査。なぜかアルツハイマー病の進行が遅い人たちがいるという報告でした。その一人が、生田佐代子さん(80歳)です。

生田さんはアルツハイマー病と診断されて5年。身の回りのことを一人でこなすのが難しくなる時期ですが、生田さんはこれまで通り夫婦2人の生活を続けられています。5年前、認知機能の検査をしたところ生田さんの成績は30点満点中23点。初期のアルツハイマー病と診断されました。

ところが、今年行った検査でも成績は23点と維持されていました。生田さんの主治医である洲本伊月病院の岡田雅博さんは、生田さん以外にも明らかに症状の進行が遅い人たちがいることに気づきました。調べを進めると進行が遅い人たちにはシロスタゾールという薬を飲んでいるという共通点がありました。シロスタゾールは元々脳梗塞の再発を防ぐための薬です。血液をサラサラにする働きがあります。

詳しく調べた結果、通常は時間が経つにつれ認知機能が低下していくのに比べてシロスタゾールを飲んでいる人たちは認知機能の低下が80%も抑えられていることが分かりました。国立循環器病研究センターの猪原匡史さんはマウスにシロスタゾールを与え脳の変化を詳しく調べました。すると、脳に溜まっていたアルツハイマー病の原因物質アミロイドβが減少したのです。

アミロイドベータは神経細胞が働くと発生する老廃物です。普通は血液に排出されます。ところが、量が多くなりすぎると血管の壁の中に詰まって溜まり始めます。すると血管が切れ栄養と酸素が届かず神経細胞が死滅。認知症を悪化させます。シロスタゾールにはそれを防ぐ力があることが分かりました。血管の筋肉を刺激し動かす働きがあり、それが溜まっていたアミロイドベータを取り除いてくれたのです。


上の記事は、7月20日(日)放送のNHKスペシャル「“認知症800万人”時代 認知症をくい止めろ~ここまで来た!世界の最前線~」のまとめです(番組のサイトをみる)。NHKのサイトには、「認知症とは何の関係も無いと思われていた“糖尿病”や“高血圧”などの既存薬を投与したところ、発症直後の患者の記憶力の低下がくい止められたという医学的な報告が相次いでいる。」と書かれています。上の記事は、誰かが勝手にまとめたものですが、放送の内容を良くまとめていると思います。

調べたところ、上の記事は、記事中に名前が出てくる猪原匡史氏の以下の2つの論文の内容を紹介したものであることがわかりました。

“Cilostazol Add-On Therapy in Patients with Mild Dementia Receiving Donepezil: A Retrospective Study”(論文をみる)。

“Phosphodiesterase III inhibitor promotes drainage of cerebrovascular β-amyloid”(論文をみる)。

タイトルからも明らかですが、PLOS ONEの論文は無作為化比較対照試験のような前向き研究ではなく、交絡因子の把握が困難な後ろ向き研究です。具体的にはシロスタゾールの投与には理由があるはずで、それが結果に影響を与えている可能性があります。また、症例数も少ないので、効果があると断定するには弱すぎると思います。実際、論文の結論にも、”These results suggest potential for cilostazol treatment in the suppression of cognitive decline in patients receiving donepezil with mild dementia but not in those with moderate/severe dementia.”つまり、シロスタゾールはドネペジル(アリセプト®)を飲んでいる軽症の認知症には有効かもしれないが、中等度から高度の認知症には効果がないと書かれています。

シロスタゾールと認知症の関係についての患者さん説明用パンフレットというのも見つけました。(記事をみる)。おそらく、番組をみた患者さんが大挙押し寄せて来られた時のためでしょう。一方でこのように1研究者の誇大宣伝に加担しながら、1週間後の番組では過去に誇大宣伝した1研究者をとことん攻撃するNHKでした。

コメント

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     国立循環器病研究センターのプレスリリースには「脳梗塞予防薬が認知症の進行抑制にも有効であることを確認」と誤解の余地なく書いてあります。tak先生の記事のような曖昧な書き方ではありません。このプレスリリースを読んだNHK職員が番組を作ったとすれば、必ずしも意図的な誇大表現とは言えないと思います。医者の責任です。
     番組をみた患者さんにはこのプレスリリースを渡したうえで興味のある方には当該問い合わせ先に連絡してもらうよう推奨すれば良いと思います。

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