ビタミンDは腸内細菌叢に依存したがん免疫を制御する

ビタミンDが腸内細菌を変えてがんを抑える、驚きの関係、研究…マウス実験で判明、仕組みの解明とヒトでの確認に期待
以下は、記事の抜粋です。


腸の組織に含まれるビタミンDが、ある腸内細菌を増やし、それがリンパ球の一種であるT細胞を刺激してがん細胞を攻撃させている可能性があるという。

がん治療の効き方に患者の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が関係しているらしいことは、一連の研究で示されていた。T細胞のブレーキを外し、がんへの攻撃力を高める「チェックポイント阻害薬」が効く人とそうでない人では、腸内でよく見られる細菌に一貫した違いがあった。また、チェックポイント阻害薬の効果が見られた人の便から採取された細菌を、効果がなかった人の腸に移植したところ、治療効果に改善が見られた。

ビタミンDにも、がん予防での役割を示す証拠は以前からあった。ビタミンDは脂肪分の多い魚や卵の黄身などから取れるほか、太陽の光を浴びることで皮膚内で作られ、代謝や骨、筋肉、神経、免疫系の健康に重要な役割を果たす。

ビタミンD活性が高い患者は様々なタイプのがんの生存率が高く、免疫治療への反応も良いことがわかった。さらに、ビタミンDの生成を助ける太陽光が比較的少ないデンマークで、ビタミンD不足を指摘された人は、その後10年以内にがんを発症するリスクが高いことが示されている。

英フランシス・クリック研究所のレイス・エ・ソウザ氏の研究室は、がん細胞の増殖または抑制に関わっていると思われる遺伝子のスイッチをオフにしたマウスを使って研究を行っている。

「ビタミンD結合タンパク質」というタンパク質を作るよう指示する遺伝子のスイッチをオフにすると、マウスの皮膚がん細胞の増殖が抑えられることを発見した。環境の何らかの異常が結果に影響を与えていないことを確認するため、研究チームは、遺伝子操作したマウスとそうでない普通のマウスを同じケージに入れて飼育した。

すると驚いたことに、一緒にケージに入っていたマウスの腫瘍も同じように、成長のスピードが緩やかになった。がんへの抵抗力が強いマウスの近くにいるだけで、普通のマウスの腫瘍の増殖まで抑えられたのだ。

マウスがお互いのフンを食べてることで、遺伝子のスイッチをオフにしたマウスのフンに含まれる何かが、同じケージにいた普通のマウスの体内に取り込まれたと考えた。

遺伝子操作されたマウスに腸内細菌を殺す抗生物質を与えてみた。すると、がんへの抵抗力が失われ、ケージの仲間にその力が共有されることもなくなった。マウスのフンの中にある腸内細菌が何らかの形で腫瘍の成長を遅らせていたと結論した。

ビタミンD結合タンパク質は、ビタミンDの多くを血液中に留めているため、腸の内壁を含め、体の様々な組織に届くビタミンDの量が減る。ビタミンD結合タンパク質を作るよう指示する遺伝子が無効にされると、腸の組織で使えるビタミンDの量が増え、腸内細菌叢でBacteroides fragilisという細菌が増えた。この細菌は人間の腸内にも常在しており、レイス・エ・ソウザ氏は、これが免疫系を刺激している可能性があると説明する。

この遺伝子のスイッチをオフにする、遺伝子操作されていないマウスの餌に含まれるビタミンDの量を増やす、マウスの腸のBacteroides fragilisを増やすといった操作は、すべて同じ効果をもたらした。つまり、腫瘍の成長が抑えられた。

とはいえ、自分がビタミンD不足だとわかったとしても、サプリメントを飲み始める前にはまずかかりつけ医に相談することを、レイス・エ・ソウザ氏は勧める。


元論文のタイトルは、”Vitamin D regulates microbiome-dependent cancer immunity(ビタミンDは腸内細菌叢に依存したがん免疫を制御する)”です(論文をみる)。

「チェックポイント阻害薬」は、T細胞のブレーキを外し、がんへの攻撃力を高める一方、インスリンを分泌するすい臓のβ細胞のような正常な細胞まで攻撃してしまい、1型糖尿病などの自己免疫疾患を副作用としておこすことが知られているので、ビタミンDのサプリなどを毎日飲んでいるヒトに自己免疫疾患が多いのかどうかを知りたくなりました。

ビタミンD結合タンパク質であるGcグロブリンの欠損、あるいは食事摂取量の増加は、ビタミンDとその代謝産物である25-ヒドロキシビタミンD(25-OHD)および1,25-ジヒドロキシビタミンDの利用可能性を増加させる。後者は腸上皮細胞上のビタミンD受容体(VDR)に結合し、未知のメカニズムによって腸内のBacteroides fragilisの増加を促進する。B. fragilisは腫瘍の成長を直接阻害し、マウスにおける免疫チェックポイント免疫療法の効果を促進する。

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