ピロリ除菌で大腸がんリスクも低減
以下は、記事の抜粋です。
Helicobacter pylori(H. pylori)陽性で除菌治療を受けた場合、治療を受けなかった陽性者と比較して、大腸がんの発症リスクと死亡リスクの両方が有意に低減したことを、VA San Diego Healthcare System のShailja C. Shah氏らが明らかにした。
Shah氏らの研究グループは、H. pylori感染と陽性者における除菌治療が、大腸がんの発症率と死亡率に及ぼす影響を調査するためにコホート研究を行った。
解析には、1999~2018年に退役軍人健康管理局でH. pylori検査を行った退役軍人のデータが用いられた。追跡調査は、大腸がんの発症、大腸がんまたは他の要因による死亡、2019年12月31日のいずれか早い日まで継続した。主要評価項目は大腸がんの発症率と死亡率であった。
主な結果は以下のとおり。
・H. pylori検査を受けた81万2,736人のうち、陽性は20万5,178例(25.2%)であった。
・陰性群と比べて、陽性群では大腸がん発症リスクは18%高く、死亡リスクは12%高かった。
・除菌治療を受けた群と比べて、治療を受けていない群では大腸がん発生リスクは23%高く、死亡リスクは40%高かった。
・これらの結果は、血清学的検査を受けていない群でより顕著であった。
これらの結果より、研究グループは「H. pylori陽性は、大腸がんの発症および死亡と関連している可能性があり、未治療の人、とくにに活動性の感染が検出された人が最もリスクが高いようである」とまとめた。
元論文のタイトルは、”Impact of Helicobacter pylori Infection and Treatment on Colorectal Cancer in a Large, Nationwide Cohort(全国規模の大規模コホートにおけるヘリコバクター・ピロリ感染と治療が大腸癌に及ぼす影響)”です(論文をみる)。
VAというのは、”veterans affairs”の退役軍人のことで、アメリカの各地には退役軍人のための病院があります。私も大昔にStanford大の関連病院になっていたPalo AltoのVA病院に2年ほどいました。当時はベトナム戦争での傷痍軍人が多く入院していました。治療などの費用はすべて政府が負担して無料だと聞いていました。
「ピロリ感染歴のある人は未感染者の150倍くらい胃癌になりやすいです。 一方、ピロリ菌除菌後にも胃癌発生の可能性が3分の1残ります。 除菌で胃癌のリスクが3分の1に低下しても、未感染者より50倍くらい胃癌になりやすいです。」という文章を多くのクリニックのホームページでみるのですが、文献的根拠は見つけられませんでした(ホームページをみる)。
ピロリ菌が胃がんの原因になるのは、菌が注射針のような構造を胃上皮細胞に刺し込み、病原性をもつ cagA という遺伝子が作るたんぱく質を注入して、がんを起こすことがわかっています。欧米人の胃にいるピロリ菌 の約3∼4割には、cagA 遺伝子がないのに対し、日本人の胃にいるピロリ菌の 90 %以上は cagA 遺伝子 をもっていることもわかっています。 すなわち、日本や韓国など東アジアに 胃がんが多い理由は、病原性の強い cagA 遺伝子をも つピロリ菌が多いからだといわれています(記事をみる)。
これらを考えると、日本人の大腸がんの場合は、これまで考えられていたよりもピロリ菌の関与の可能性が高いかもしれません。興味深い研究だと思います。
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