バレニクリンとブプロピオンで自殺・自傷は増えず
以下は、記事からバレニクリン(チャンピックス®)の部分だけを抜粋しました。
禁煙補助薬のバレニクリン(商品名チャンピックス)は、致死的または非致死的な自殺や自傷のリスクを上昇させないことが、大規模前向きコホート研究の結果として示された。英Bristol大のKyla H Thomas氏らが、BMJ誌電子版に2013年10月11日に報告した。
バレニクリンの発売以降、処方された患者の自殺と自傷の例が報告された。そのため、これら2剤による自殺関連行動のリスク上昇が懸念され、欧米の規制当局は安全性に関する警告を出している。
しかし、自殺はまれにしか発生しないため、自殺との関係を調べるためには大規模な解析が必要となる。そこで著者らは、バレニクリンを処方された患者とニコチン代替療法が実施された患者の間で、自殺、自傷のリスクを比較するための前向きコホート研究を実施した。うつ病に及ぼす影響も調べた。
英国の一般開業医のクリニック349カ所で、06年9月1日から11年10月31日に、ニコチン代替療法、ブプロピオン、バレニクリンのいずれかの処方を受けた18歳以上の男女11万9546人の情報を抽出した。それらのうち、ニコチン代替療法が実施されたのは8万1545人(68.2%)、ブプロピオンを処方された患者は6741人、バレニクリンを処方された患者は3万1260人(26.2%)だった。
主要転帰評価指標は、禁煙治療薬の処方初日から3カ月以内における致死的または非致死的自傷と、うつ病治療薬の投与開始とした。ニコチン代替療法群と比較してバレニクリン群の致死的または非致死的自傷のハザード比は0.88と有意差はなかった。うつ病治療開始のハザード比は0.75(0.65-0.87)だった。
バレニクリンが、ニコチン代替療法に比べ、自殺関連行動のリスクを高めることを示すエビデンスは得られなかった。
元論文のタイトルは、”Smoking cessation treatment and risk of depression, suicide, and self harm in the Clinical Practice Research Datalink: prospective cohort study.”です(論文をみる)。
バレニクリンは、ニコチン受容体の部分アゴニストで、シナプスの末端からニコチン自身よりも軽度にドパミンを放出させます。これによって、ニコチン渇望感が減じ、タバコを我慢しやすくなります。また、バレニクリンはニコチンよりも半減期がはるかに長く(約24時間)、タバコを吸った時におこるはずのニコチンによるドーパミン放出が抑制され、陶酔感・満足感が減少します。
一方、関連記事で紹介したように、バレニクリンは、他の一般的な薬と比べて約18倍暴力的になるという報告があります。このため、積極的な処方をためらっていた医師も多かったと思うのですが、今回の論文はこのような懸念をかなり払拭してくれる情報だと思われます。
BMJには”Read responses”というものがあり、論文に対する読者のコメントが掲載されます。本論文に対しては、方法論的な問題点や「抗うつ薬の投与がないからといって、うつ状態になっていないとはいえない」などのコメントが書かれています(responsesをみる)。いずれにしても、バレニクリンは中枢ドパミン神経系に影響するので、精神状態に気を付けながら投与した方が良いと思います。
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