冬眠中のクマから血栓予防のヒントを発見
以下は、記事の抜粋です。
長い間、体を動かさないでいると、人間なら血行不良から命にも関わる血栓ができかねない。しかし、何カ月にもわたって眠り続ける冬眠中のクマにこうした問題が生じないのはなぜなのだろう。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学を中心とするグループが実施した13年にわたる研究を報告した。研究グループは、この発見が血栓予防薬の開発につながるとの期待を示している。
研究グループの1人である同大学のTobias Petzold氏は、「冬眠前のクマは、起きている時間の大半を食べることに費やして体重を大幅に増やし、1年の半分にも及ぶ冬眠中には何もせずに寝て過ごす。人間がこのような生活をしたなら、肥満、筋肉減少、骨密度低下、2型糖尿病、深部静脈血栓症や肺塞栓症を含む静脈血栓塞栓症 (VTE)など、さまざまな健康上の問題が生じるだろう。それなのにクマは、冬眠明けでも健康に衰えが見られない。何がクマを守っているのかを突き止めれば、理論的には、“現代のライフスタイル”に関連して生じる人間のさまざまな疾患に対する新たな治療法につながるかもしれないと考えた」と語っている。
13頭のヒグマから夏と冬の2回にわたって血液を採取し、夏と冬の間での血小板タンパク質レベルの比較を行った。また、脊髄損傷により慢性的に動けない患者とその対照となる健常者からも血液を採取して調べた。
その結果、冬眠中のクマでは、止血作用のある血小板でのタンパク質の発現が、通常のレベルより低下していることが明らかになった。特に発現の低下が著しかったのは、ヒート(熱)ショックタンパク質47(HSP47)と呼ばれるタンパク質で、活動中のクマと比べた冬眠中のクマの血小板では55倍も低下していた。このことから、HSP47の発現低下が、何カ月も眠りにつくクマの体内での血栓形成を防いでいる可能性がうかがわれた。そこでPetzold氏らは、HSP47を発現しないマウスを作成して血栓形成能を調べた。その結果、HSP47を発現しないマウスでは、対照と比較して血栓形成頻度が大幅に減少することが確認された。さらに、慢性的に動けない患者と動けない状態に置かれた健常者でも血小板でのHSP47の発現低下が確認された。
元論文のタイトルは、「不動に関連する血栓保護は、クマからヒトに至るまでの哺乳類種全体で保存されている。」です(論文をみる)。
HSP47は、永田和宏氏が1986年に発見した、コラーゲン合成に必要な特異的分子シャペロンです。HSP47が欠損するとコラーゲン合成が阻害され、マウスの発生は障害されます。つまり、ノックアウトマウスは胎生致死だと報告されています。
一方、HSP47はコラーゲン合成に必須の因子であるだけではなく、コラーゲンが異常に蓄積する病態、たとえば肝硬変、肺線維症を初めとする、種々の線維化疾患においてはコラーゲン合成を過剰に促進して、線維化を増悪させる因子であることも、永田氏らのこれまでの研究から明らかになっており、HSP47は線維化疾患治療薬のターゲットとして、世界の多くの研究室、製薬企業において研究が進められているそうです(記事をみる)。
血小板や肺だけでHSP47の機能を制御するような薬ができるのでしょうか?
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