中国伝統薬の抽出物、がんと直接関連 米研究
以下は、記事の抜粋です。
中国伝統薬で関節炎や痛風、炎症などの治療に用いられる植物の1種の抽出物に、がんと直接的な関連があり、驚くほど多くの遺伝子変異の原因となっているとする研究結果が8月7日、Science Translational Medicine誌に発表された。
この研究によると、台湾で上部尿路がんの患者19人の腫瘍から、「ウマノスズクサ」として知られる植物から抽出される「アリストロキン酸」の遺伝子特性が発見された。
アリストロキン酸が発がん物質であることは昔から知られているが、今回の研究ではこの「アリストロキン酸」が、喫煙による肺がんや紫外線による皮膚がんよりも多数の遺伝子変異を起こすことが初めて示された。ウマノスズクサの漢方薬を摂取していた患者の腫瘍では100万塩基対当たり約150か所の遺伝子変異が見つかったのに対し、喫煙関連の肺がん患者では8か所、UV関連のメラノーマ患者では111か所だった。
ジョンズ・ホプキンス大学のKenneth Kinzler教授は、「全ゲノム解読を行ったことで、アリストロキン酸への暴露と個人ががんを発症することを直接、関連付けることができた」と述べている。
ウマノスズクサとがんとの関連から、アリストロキン酸を含む製品は2001年に欧州と北米で、2003年にはアジアでも使用が禁止されている。
元論文のタイトルは、”Genome-Wide Mutational Signatures of Aristolochic Acid and Its Application as a Screening Tool”です(論文をみる)。
アリストロキア酸(日本ではこう呼ばれているようです、aristolochic acid)は、グループ1の発がん物質に分類され、腎毒性と上部尿路上皮細胞がん (upper urinary tract urothelial cell carcinoma、UTUC)をひきおこすことが知られています。
本論文は、9例のUTUCがんの全ゲノムおよびエクソソーム解析結果を報告したものです。アリストロキア酸による変異配列は特徴的で、A[C|T]AGGというモチーフのところで、A:TがT:Aに変異しているそうです。また、アリストロキア酸による変異は、スプライス部位に豊富に認められるため、スプライス部位の変異がががんをひきおこすのではないかと推測しています。実際、RNA配列を調べてみたところ、スプライシングの異常が認められたそうです。
このような変異は、ヒストンH3K27の脱メチル酵素KDM6Aをコードする遺伝子に特に多く認められました。また、これまでアリストロキア酸との関連が認められていない肝細胞がん93例を調べたところ、アリストロキア酸によってひきおこされる変異と似た配列を11例で見出したそうです。今後のゲノム解析によって、上部尿路上皮細胞がん以外のがんとの関連も明らかになる可能性があります。
ところで、ウマノスズクサはジャコウアゲハという綺麗な蝶の幼虫の食草です。ジャコウアゲハの幼虫はこのような毒を含む食草を食べることで小鳥などから身を守っているそうです(記事をみる)。ジャコウアゲハのゲノムを解析すれば、アリストロキア酸耐性のメカニズムが明らかになるかもしれません。
ウマノスズクサを食草とするジャコウアゲハ(「黒蝶の戦略」より)
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