化合物だけでマウスiPS=遺伝子より簡単、低コスト-北京大
以下は、記事の抜粋です。
マウスの体細胞に遺伝子群を導入する代わりに、7種類の化合物を使う方法で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ったと、中国の北京大などの研究チームが7月18日付のサイエンス誌電子版に発表した。
この「化学iPS細胞」は作製効率が0.2%程度で、ヒトの体細胞では成功していない。作製法を改善してヒトで実現すれば、遺伝子導入法より簡単に低いコストでiPS細胞を作り、利用できるようになるという。
山中教授らが2006年にマウス、07年にヒトで皮膚細胞からiPS細胞を作った際は、「Oct4」など4種類の遺伝子を導入した。その後、作製法の改善競争が国内外で続き、遺伝子を一つずつ化合物に置き換えたり、遺伝子群の代わりにたんぱく質を導入したりする方法が開発されている。
元論文のタイトルは、”Pluripotent Stem Cells Induced from Mouse Somatic Cells by Small-Molecule Compounds”です(論文をみる)。
Corresponding authorが2人、”* These authors contributed equally to this work.”という*印がついた著者が6人、”† These authors contributed equally to this work.”という†印がついた著者が7人、計15人の著者による論文です。これだけでも実験の激しさが伝わってきます。
気の遠くなるようなスクリーニングで得られた化合物は、以下の7つです(「科学者のつぶやき」にリンクしています)
フォスコリン(Forskolin):アデニル酸シクラーゼの活性化により細胞内cAMPの濃度を高めます。
バルプロ酸:GABAトランスアミナーゼの阻害し、電位依存性ナトリウムチャネルとT型カルシウムチャネルを阻害、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害などの作用がある。遺伝子導入によるiPS細胞誘導の効率を高めることが報告されています。
CHIR99021:GSK-3β(Glycogen Synthase Kinase 3β)を阻害。iPS細胞へのリプログラミング効率を向上させることが報告されています。
616452:TGF-β RI(Type I Receptor Kinase) Inhibitor II だそうです。
トラニルシプロミン:非選択的MAO阻害薬でアメリカでは抗うつ薬として使われているそうです。
デアザネプラノシン:S-アデノシルホモシステイン(SAM) 加水分解酵素を阻害。EZH2複合体及び関連するH3K27 トリメチル化を有効に阻害して、 癌細胞の強力な アポトーシスをもたらすことができるが、正常細胞においてはそうではないそうです。
TTNPB :選択的かつ極めて強力なレチノイン酸アナログであり、核内転写因子であるレチノイン酸レセプタ-(RAR)α, β, γに対する親和性を有する。レチノイン酸応答配列を持つ遺伝子のリガンド活性化による転写を引き起こすそうです。
ヒトでも遺伝子を使わずに化学物質だけでiPS細胞ができるとすればすごいと思いますし、理論的にはiPS細胞を介さない(線維芽細胞から心筋細胞などへの)直接リプログラミングも化学物質だけでできる可能性が見えてきたと思います。
コメント
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「化学iPS細胞は作製効率が0.2%程度」というのは、この細胞ができる成功率という意味ですか?
山中先生のiPS細胞はどのくらいですか?
日本はiPSの国際競争の中でどんな位置にいるのでしょう?
いろいろすみません。
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>やすさん
質問ありがとうございます。作成効率というのは、処理した細胞が初期化する率とすると、最近初期化を阻害する因子が見つかったという論文の記事をみると、これから改善されるところのようで、山中先生の初めの論文でも0.2%以下だったようです(http://news.mynavi.jp/news/2013/06/25/131/index.html)。2つ目の質問ですが、山中研は勿論iPS研究のトップにいると思います。ただ、iPS細胞は目的ではなく手段ですので、iPS細胞を使わないでも、再生医療を革新するような研究が全然知らないところから出て来るかもしれません。それがおもしろいところだと思います。国際競争ではなく、国際協調して学問を前に進めることが重要だと思います。
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>takさん
ご説明どうもありがとうございました。
山中先生の場合も初めは0.2%以下だったとのことですが、今はどうなのですか?
山中先生に聞いてと言われそうですが、すみません。
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>やすさん
本当に今どこまで改善しているのか、私は専門家ではないので知りません。論文や記事でも具体的に書かれているものは見つかりませんでした。でも、かなり改善しているとは思います。
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>takさん
わかりました。調べてくださってどうもありがとうございました。