セロトニンとうつ病の関係を大きく見直すこととなる研究結果が発表される
これは、読者の誤解を招きやすい間違いの多い記事です。以下は、記事の抜粋です。
数十人の国際的に著名な研究者たちが関わるメタアナリシスにより、セロトニン遺伝子・ストレス・うつ病などの相互関係について調べた2003年の研究結果は的外れな内容であった可能性が示唆されています。
発表されたメタアナリシス論文のタイトルは、”Collaborative meta-analysis finds no evidence of a strong interaction between stress and 5-HTTLPR genotype contributing to the development of depression”です(論文をみる)。タイトルからもわかりますが、上の記事で「セロトニン遺伝子」と書かれているのは、「セロトニントランスポーター遺伝子」の誤りです。セロトンは低分子の神経伝達物質ですので、「セロトニン遺伝子」はありません。
セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸から複数の酵素で合成され、神経刺激によってシナプスから放出されます。放出されたセロトニンはこれもまた複数の酵素で分解されます。放出されたセロトニンの一部は上記のセロトニントランスポーターでもう一度シナプスに取り込まれます(再取り込み)。このように、セロトニンの代謝に関連するタンパク質は数多く存在し、それぞれが別の遺伝子でコードされています。
記事にも出てくる抗うつ薬の「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」は、セロトニントランスポーターの機能を阻害し、シナプス間隙でのセロトニン濃度を上昇させることがその作用メカニズムだと考えられています。そのため、セロトニントランスポーターとうつ病の関係は長年注目されてきました。
特に、遺伝学的解析が始まった1990年代に、ヒトのセロトニントランスポーターをコードする遺伝子に多型が存在することが発見され、その多型とうつ病や性格との関連についての研究が世界中で盛んに行われました。具体的には、セロトニントランスポーター遺伝子には、短いS型と長いL型の2種類があります。S型を2本持つSS型、L型を2本持つLL型、そしてS型とL型を1本ずつ持つSL型に分類されます。そして、SS型の人はSL型、LL型よりも不安を感じやすいかつうつ病になり易いという論文が多く報告されました。
日本人にはSS型を持つ人が多いことから、これらの論文の結論を信じて「日本人の幸福度が低いのはなぜか?」などという怪しげなことをまことしやかに「科学的に説明する」ヒトもいます。以下にその例を紹介します。
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その時代の流行に乗って研究し、皆が期待する結果を出してしまう研究者が世界中に多いということだと思います。期待した結果と違う結果が出た時こそ興味深いと思うのですが、、、
あと、実際に最先端の現場で研究している研究者たちは、最近の遺伝学的研究の結果からセロトニントランスポーターの遺伝子多型とうつ病の関連性が低いことはよくよく承知していると思います。彼ら彼女らが「セロトニンとうつ病の関係を大きく見直すこと」にはならないと思います。日本の「脳科学者」らの反応が楽しみです。
コメント
説得力ないのですが
タイトル詐欺?
これまで自分は不安を感じやすい性格であることがずっと悩みのタネでした。
中野信子さんの本などから、「自分は絶対SS型だ」「遺伝子レベルの話では対処しようがない」などと思っていました。
セロトニントランスポーター遺伝子と不安症の程度との関係の科学的な情報を探してここにたどり着きました。
結局、この2つはあまり相関がなかったということでしょうか?
また、この問題を扱っているおすすめの書籍などありましたら是非紹介して頂きたいです。
コメントありがとうございます。この論文により、中野さんの主張してきたことの科学的根拠がなくなったことは間違いないですので、中野さんの書いたことで思い悩む必要はないと思います。この問題を扱った書籍などは、探してみましたが見つかりませんでした。、
お返事ありがとうございます。
こういった専門的な内容を根拠に主張されると素人には太刀打ちできないというか、それに反論するのがものすごく大変ですから、今回この問題についてハッキリさせることが出来て安心できました。
中野さんに限らず、巷に溢れる軽めの自己啓発の記事や本には、相変わらずセロトニントランスポーターと不安との関係について科学的に立証されたかのように書かれていますので、今後はもうその手の情報に踊らされずに済みそうです。
ありがとうございます。