トキソプラズマを使って、複数の大型治療用タンパク質を神経細胞に細胞内送達する研究

遺伝子改変した寄生虫が脳に治療薬を運んでくれるかもしれない
以下は、記事の抜粋です。


動物の脳に侵入するトキソプラズマという寄生虫を遺伝子改変することで、いつの日か大切な薬を患部に送り届ける運び屋になってくれるかもしれない。

血液脳関門は、その名の通り、脳に流れ込む血液の門として働き、そこから入り込もうとする異物を侵入を防ぐ。血液脳関門のおかげでほとんどのタンパク質が脳内に入れない。このことは、脳の病気を治す薬を血管に注射しても、患部に届かないということでもある。

「トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)」は、ネコ科動物を最終宿主とする寄生虫で、ヒトを含むほぼ全ての温血動物に感染し、世界人口の3分の1が感染していると推測されている。健常者が感染し免疫応答が開始されると、トキソプラズマは脳や筋肉内で組織シストと呼ばれる構造をとる。組織シストは安定な壁に覆われているため、トキソプラズマは免疫系の攻撃を受けずに生存を続ける。

しかし、免疫に問題のある人は重症化して、最悪の場合は失明したり、命を落としたりすることもある。また、妊娠中の女性が感染することにより起こる先天性トキソプラズマ症は、死産および自然流産だけではなく児に精神遅滞、視力障害、脳性麻痺など重篤な症状をもたらすことがある。

脳に侵入したトキソプラズマは、3種類の細胞小器官から分泌される物質で神経細胞に影響を与える。そこで考案されたのは、そのうちの2種を改造することで、脳の病気を治すタンパク質を分泌させるというアイデアだ。

「MeCP2」というタンパク質は、「レット症候群」という遺伝性の神経発達障害に対して治療効果がある。MeCP2を分泌するトキソプラズマを脳に寄生させれば、病気を治すことができるかもしれない。実際、トキソプラズマが分泌したタンパク質は、脳オルガノイドのDNAに結合し、遺伝子の発現が変化したことが確認された。遺伝子改変トキソプラズマをマウスにも感染させた実験でも、タンパク質が脳に届けられたこと(最小限の炎症もあったという)が確認されている。

トキソプラズマに感染しても、人間を含む健康な動物ではほとんど感染症を起こさないことから、うまく利用できる可能性があるという。


元論文のタイトルは、”Engineering Toxoplasma gondii secretion systems for intracellular delivery of multiple large therapeutic proteins to neurons(トキソプラズマ・ゴンディ分泌系を工学的に構築し、複数の大型治療用タンパク質を神経細胞に細胞内送達する)”です(論文をみる)。

記事には「トキソプラズマに感染しても、人間を含む健康な動物ではほとんど感染症を起こさない」と書かれていますが、ネズミに感染した場合、ネコに食べられやすいように行動に影響を及ぼすという報告がある(記事をみる)ので、知らないうちに行動に影響が出る可能性はあると思います。

記事にはまた、「世界人口の3分の1が感染していると推測されている」と書かれていますが、感染したヒト達の行動は、していないヒトと比べて「温厚」だったりするのでしょうか?確かに、ネコを飼っているヒトは少数例からの推測ですが、「温厚」かもしれないと思います。

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