発熱外来を担当する医療現場から ~コロナの第7波の渦中ですぐやってほしい改善点~
以下は、8月1日に医療ガバナンス学会のメールマガジンに掲載された坂根みち子氏の投稿です。拡散が望まれる情報ですので、そのまま転載します。
1年ぶりの投稿です。2年半、ほぼほぼコロナに追われていた気がします。
当院は基本医師一人の診療所ですが、第6波までにオンライン診療約2000人、ワクチン接種約1万回行ってきました。その間、組織のルールに則り民主主義的手順を踏んで現場を改善してもらおうと努力もしましたが、指示待ちが染み付いた組織の根は深く、フィードバックする機能は機能していませんでした。
そして今、コロナの第7波の勢いが止まりません。
大多数の人には軽症で済むとはいえ、発熱外来の最前線は今最大のピンチを迎えています。明らかにキャパオーバーです。
第5波のデルタ株の時のように、在宅で急変して亡くなる人は少ないかもしれませんが、コロナだろうが他の疾患だろうが、すぐに診てあげなければならない人が受診出来なくなっています。
もう7回目。この国は何度同じことを繰り返せば改善するのでしょう。根本的な改善は無理でもできることはたくさんあったし、その声も上がっていました。残念ながら、この国の意思決定組織(そんなものがあるかどうかも怪しいですが)が聞く耳を持っていなかった、もしくは物事の優先順位をつけられる人がいなかったということです。
今回もまた人災の側面が大きいですね。
1)国に対して2)国民や職場に対して、早急に手を打って頂きたいことを挙げておきます。
1)国は、必要な人に必要な医療が届くようにするためには発熱外来でのトリアージ機能を高める必要があります。そのためにとにかく今は無駄を省いて欲しい。
全国共通の方針は、各自治体任せではなく国がやるべき仕事です。
①軽症者は医療機関を受診してなくて済むように、認可された抗原キットがどこでも手に入るようにして下さい(有料・無料に拘らず、あらゆるルートで)
②医療の不要な軽症者の登録作業(HER-SYS)を医療機関と保健所にやらせるのをやめて下さい。これは公衆衛生上の仕事であって、検査が足りていない状況下で、都道府県ごとに「みなし陽性」の基準が違うというのに、どういう目的で継続しているのか、理由を教えて下さい。崩壊している医療現場にやらせるような仕事ではありません。
→感染症法の2類とか5類とかの机上の空論に時間費やしていないで、すでに破綻していること対しては、軽症者の陽性確認と登録方法を現状に即して大至急変えて下さい。
③いわゆる「みなし陽性」は全て医師の判断で認めるべきです。
コロナの患者がいて、隔離中の同居の家族に症状が出ればコロナです。
パーティーや会食でも一斉に症状が出て、一人がコロナなら全員コロナと診断します。
医師の臨床診断の基本です。検査はあくまで補助診断に使うものです。
これを検査で陽性が出ないと認めない県と「みなし陽性」として認める県があるのです。認めない県では、繰り返し検査が必要になり、患者と医療機関の労力と費用と貴重な検査キットを浪費しています。
国がコロナの診断の根幹に関わる部分を都道府県に丸投げした根拠はなんでしょう。
医師の仕事を奪われることに常日頃非常にセンシティブな医師会がここに無頓着なのはなぜでしょうか?
世界医師会の医師の倫理(2009年WMAマドリード宣言)では、「何人からの干渉も受けずに、自らの判断で患者の最大利益を基準に診療する権利」がうたわれていますが、これにも反しますよ。医師会は医療機関へ土日の発熱外来への協力を呼びかける前に、医療資源を最大限有効活用するために国から降ってくる無駄を省く交渉をして下さい。
④患者が自分の重症化リスクがわかるように早急にアプリを作って下さい。今でもリスク評価は毎日各医療機関が行なっています。とても機械的なものです。リスクはなくても、小児の脱水や意識障害等、医療機関への受診が必要なことはあるので、判断できる人がその範囲内で、自ら判断してくれれば十分です。
⑤内服の抗ウイルス薬をもっと処方しやすくして下さい。
現在外来で、重症化リスクを持つ軽症のオミクロン患者に投与できる有効な点滴薬はありませんが、内服薬が2つあります。9割近く有効なパキロビッドと3割程度入院を防ぐラゲブリオです。
このうち最もよく効くパキロビッドが、諸外国に比べ、とてつもなく手続きが煩雑で、処方まで手間も時間も(医師の責任も重く)かかるのです。まず事前に、ネットでパキロビッドについて学習し登録センターに登録します。適応患者が出た時に、外来で5枚の投与前チェックシートを埋め、さらに患者の同意を得てから同意書を代筆し、それらをネットで入力するとIDが発行され、それからようやくパキロビッドの在庫を持つ薬局へ処方箋を送ってやり取りするのです。この薬は併用禁忌が多いので、処方しようとする医師は、その患者が受診している全ての医療機関から出されている薬を確認する必要があります。これを医師が行ってから薬剤師が再び確認するわけです。なぜ最初に薬剤師がチェックしないのでしょう。薬の併用禁忌のチェックこそ薬剤師の出番でしょう。医師の仕事のタスクシフトをあれほど推進している厚労省は、なぜ、ここで積極的に薬剤師の力を借りないのでしょうか?
その結果、処方しやすいラゲブリオ使用実績が232,159人(7/15までに)に対し、極めて有効なパキロビッド使用実績は13,633人(7/15までに)とパキロビッドが圧倒的に使われていないのです。これはとりもなおさず、外来で軽症なうちに重症化の芽を摘んでしまうことに失敗していることを意味します。
https://www.mhlw.go.jp/content/000968302.pdf
適応患者が出たら、まず薬剤師がその人の内服薬をチェックする。飲み合わせをみて処方可なら医師にフィードバックしてパキロビッド処方、ダメならラゲブリオ、という流れに変えてくれれば、パキロビッドの処方は急増するでしょう。結果として、重症化する患者の数も減ります。
これはとても大事な点です。
⑥ワクチンの接種体制をインフルエンザと同様なやり方にして下さい。
コロナのワクチン接種は現在行政が関与しており、自治体毎に予約システムがあり、自転車操業的に始まり、修正する時間も予算も能力もなく効率の悪いまま運用されているところが多々あります。
当院のあるつくば市では、市からの予約システムを通した予約とクリニックの予約システムを通じた予約で、事務作業が増え電話が鳴り止まない状況になっています。
そしてワクチンは市を通じて供給されるので、そのやり取りに取られる手間(今のようにワクチン不足になってくると、いつまでに何人予約が入っているか数えて、まめに市とやり取りするようになります)もかかります。
インフルエンザと同じように、卸を通じたワクチンの供給にして下さい。その方が医療機関は圧倒的に楽になるでしょう。また、コロナのワクチンは接種後の待機時間が15分あり、インフルエンザより手間がかかるのにインフルエンザワクチンより接種費用が安いのです。週100回以上、150回以上接種すれば加算をつけるというやり方ではなく、せめて、現在1回約2000円の接種費用を3000円にしてくれれば、多くの医療機関が接種に参加しやすくなります。
⑦データや情報を医療現場で共有させて下さい。
コロナ関連の情報システムは、互換性がないまま複数乱立し、私たちはその全ての入力を求められてきました。(ex. HER-SYS/G-MIS/V-SYS/VRS/NESID等)ところが、HER-SYSは自分が入力した分しか確認できず、接触確認アプリのCOCOAも大事な時に機能せず、現場へのフィードバックが全くと言っていいほどありません。データを集めているはずの国からの論文も、専門家からの論文もほとんど出ていないでしょう。他国と圧倒的な差がついています。今目の前にいる患者のためにデータが生かせないなら、一体私たちは何のためにこれだけ苦労して入力しているのでしょうか?
罹患した人の隔離期間も日本はまだ10日ですが、他国と比べて長いのです。人手不足を受けて濃厚接触者の隔離期間がいきなり短くなりましたが、まずデータを示して欲しいのです。
第6波も7波も国の判断が遅れたために、コロナの流行とワクチン接種業務が重なり、現場には大変な負担となっています。それでも国民のためにと、医療現場が頑張ってなんとかすると、国はまた検証もせずに繰り返すのです。曖昧な政治的判断ではなく、データに基づく科学的な判断をさせて下さい。
2)国民の皆さん、職場の管理者の方にお願いです。
コロナだけでなく、コロナ以外の病気の人ですぐ治療が必要な人が医療機関にかかれなくなっています。自分と家族のこととして考えてみて下さい。
生きるか死ぬかになった時に、救急車を呼んでも来ない、来ても搬送する先がないのです。
私たちは今、我慢できるときは我慢して、その代わり本当に必要な時に優先して診てもらえるように、少ない医療資源を有効利用しなくてはなりません。
オミクロンのBA5はBA1,2より1.27倍もうつりやすく、医療機関ではスタッフの感染や自宅待機による人手不足が深刻化しています。器(ベッド)はあっても人がいないのです。
①まず接種できる人はワクチンを最低3回接種して下さい。ワクチンの接種者は、多少のウイルスが体に入ってきても抑え込むことができます。
コロナの後遺症で苦しむ人もじわじわ増えています。
世界では様々なデータが積み上がっています。ワクチンは明らかに有効です。
②出来る時に、認可された抗原キットを手に入れておいて下さい https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11331.html
③解熱剤や風邪薬購入しておきましょう。
痛み止め・解熱剤・咳止め等の対症療法の薬のほとんどは市販薬でカバーできます。痛み止めと解熱剤は同じものです。子供にはアセトアミノフェン入りのものがいいのですが、持病のない大人はロキソニンでもイブでも、大抵何を内服しても大丈夫です。
④最低1週間分の食べ物を備蓄しておきましょう。
行政からの食料は、配ってくれたとしても届くのは治った頃です。
⑤罹患証明は急がないで。
コロナにかかった場合、保険会社の書類は急がなくても大丈夫です。一旦医療機関で登録された人はマイハーシスから罹患は証明できます。保健所も隔離期間の証明書を出してくれます。
認可された抗原キットで陽性になった人は、製造会社名と陽性と出たキットの写真を残しておいて下さい。後からでも証拠になるでしょう。
⑥合理的な感染対策を
いつも一緒のメンバー以外は、相手がコロナウイルス保持者かもしれないと思って行動して下さい。相手の感染状況が不明な場合は、マスクをすること部屋の換気することです。この2つは、ワクチン接種とともに極めて有効な感染対策です。戸外なら大丈夫といっても、イベントで混雑していれば話は別です。
職場の管理者の方々へ
コロナの疑い患者が出た時に、周囲の人も含めて「会社からPCR検査を受けてくるように言われた」という人が後を絶ちません。会社命令での検査は法的根拠もなく、やり取りを含めて医療現場の大きな負担になっています。陽性証明や陰性証明を求めさせるのは止めて下さい。治療がいらないから、まず自宅療養で乗り切って頂きたいのです。
会社でも認可された抗原キットを購入して配布してあげて下さい。
自分自身で出来ること、職場でできるサポート、現場の医療機関がやるべきこと、医療団体や学会がやるべきこと、行政がやること、専門家たちがやるべきこと、そしてリーダーであるべき政治家の仕事。皆で分担し合いましょう。
指示待ちに慣れてしまった国民性を変えるのは難しいですが、自ら考えて行動しないと、もう誰も守ってくれません。
私たち医療現場は、この2年半でかつてなく疲弊し、これ以上のエネルギーはありません。
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