日本脳炎予防接種:死亡男児、併用禁止薬を服用

日本脳炎予防接種:死亡男児、併用禁止薬を服用

以下は、記事の抜粋です。


岐阜県美濃市の男児(10)が日本脳炎の予防接種直後に急死した問題で、男児がかかりつけの医師から併用が禁じられている薬を処方されていたことが、厚生労働省への取材で分かった。一緒に服用すると不整脈により死亡する危険性があるとされ、同省は薬の併用と死亡との関連について調べている。

男児の母親によると、男児は広汎性発達障害による興奮を抑えるため2種類の薬を服用。今年9月からは夜尿症を抑える薬も処方され、3種類を毎日飲むように指示されていた。予防接種の前日夕にも服用し、当日は飲んでいなかったという。

厚労省によると、興奮を抑える薬1種と夜尿症を抑える薬を併用すると脈が乱れて意識を失うことがあり、死亡する危険性もあるとされている。母親は「かかりつけ医を信頼しており、指示通りに飲ませていた。併用禁止とは知らなかった」と話している。

男児は10月17日、美濃市内の小児科医院でワクチン接種を受け、約5分後に心肺停止となって約2時間後に死亡が確認された。かかりつけ医とこの小児科医院は別。岐阜県警も併用の危険性について把握しており、「処方した医師を含め関係先から事情を聴きたい」としている。


記事のタイトルを読むと日本脳炎の予防接種をしてはいけないような薬物を飲んでいたかのようにとれますが、そうではないようです。また、毎日新聞は、同じ事件を10月18日に以下のように報道しています。

日本脳炎予防接種:男児死亡、急性アレルギーか…専門家ら

以下は、記事の抜粋です。


岐阜県美濃市藍川の小児科医院で10月17日、小学5年生男児(10)が日本脳炎の予防接種の約5分後に心肺停止状態になり死亡した問題で、専門家らは急性アレルギー反応の「アナフィラキシーショック」の可能性を指摘した。県警関署は19日に司法解剖して死因を調べる。厚生労働省結核感染症課は「予防接種ではごくまれにアナフィラキシーショックを発症する場合がある。今回は発症までの時間が短く、同ショックが疑われる」としている。

厚労省は、日本脳炎の予防接種について、重い副作用が報告されたことから05~09年度には積極的な勧奨を差し控えてきた。新ワクチンが開発されたため10年度から再開。再開後のワクチンの副作用による死亡例は報告されていないという。


10月18日の記事では、司法解剖前にもかかわらず、この男児の死亡はおそらくワクチンによるアナフィラキシーショックだと読めるように、「専門家」意見を上手に組み合わせて作文しています。ところが、併用禁忌の薬物が投与されているのを知った段階で、併用により生じた不整脈により死亡したのではないかと、今度は厚労省役人の意見を借りて主張し、いかにも大事件のように警察のコメントまで掲載しています。しかし、用いられた2つの薬物名は記載されていません。

ネットで調べたところ、sertraline(ジェイゾロフト®)とpimozide(オーラップ®)とが併用されたようです(記事をみる)。またその記事によると、「かかりつけ医」は「知っていたが(自閉症などの症状が治まる)メリットを考えて処方してきた」と語ったそうです。

sertraline(ジェイゾロフト®)はSSRIで、pimozide(オーラップ®)はブチロフェノン系のD2ドパミン受容体遮断薬です。小児神経学会のHPには、発達障害の子どもの薬物療法として、「定型抗精神病薬(ハロペリドール、クロールプロマジン、ピモジド):多動・衝動性や反抗挑戦性障害、チック、こだわり行動に使用されます。」—「 SSRI(フルボキサミン、パロキセチン)、SNRI(ミルナシプラン)、三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン):こだわり行動、うつ、不安障害などに使用されます。」と書かれていますので、発達障害児にピモジドやSSRIを使うのは一般的な治療のようです。

ピモジドの添付文書にはSSRIのフルボキサミンとパロキセチンは、CYP3A4を阻害する薬剤として禁忌薬物にあげられていますが、セルトラリンはあがっていません。ピモジドは、QT延長などの重篤な心臓血管系の副作用があることが知られている薬物です。ピモジドが主にCYP3A4で代謝されるために、CYP3A4阻害作用の強いフルボキサミンとパロキセチンなどのSSRIが併用禁忌になるのはよくわかります。

一方、セルトラリンのようにCYP3A4阻害が弱い薬物がなぜ併用禁忌になるのかわかりませんでした。調べたところ、フロキセチン、フルボキサミンとともにセルトラリンもQT時間延長を来す可能性のある薬剤として紹介されていました(資料をみる)。

同じ資料に、ピモジドと同じ向精神薬のアミトリプチリン、イミプラミン、クロールプロマジン、フェノチアジン、ドロペリドール、ハロペリドール、リスペリドン、チオリダジンなどもQT時間延長を来す可能性のある薬剤として紹介されていました。

こうなると、ピモジドとSSRIの組み合わせは併用禁忌なので避けるとしても、ピモジドの代わりにハロペリドールやリスぺりドンあるいはクロルプロマジンを使っても単独使用よりもOT延長の可能性は高まることになってしまいます。

こんな事件で警察が出てくるのであれば、医師も症状が治まるメリットよりも、自己の安全のために、効果は弱くても単剤での治療を選ぶようになると思います。

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