知的障害の多くは遺伝ではなく遺伝子の突然変異によるということが明らかに

知的障害の多くは遺伝ではなく遺伝子の突然変異によるということが明らかに

以下は、記事の抜粋です。


世界には1~3%の知的障害の子どもがおり、その半数は知的障害を持っていない両親から生まれてきます。これまで知的障害の主要原因は遺伝であると考えられてきましたが、新たな研究によって知的障害のない両親を持つ知的障害児は、両親から劣性の遺伝子を受け継いだのではなく、子どもの遺伝子において新たに発生したランダムな突然変異によるケースが多いということがわかりました。

人は親から全てを遺伝するのではなく、両親に認められないDNAの変化や、新しく発生した突然変異を持って生まれます。今回の研究で、散発性の知能発達の多くは遺伝ではなく不運な偶然によるものが大半であることがわかったのです。

チューリッヒ大学のAnita RauchさんらはIQ50以下の結果を持つ知的障害の子ども51人のエキソーム配列解析を行い、これらを知的障害を持たない彼らの両親のものと比較しました。結果、知的障害を持たない子どもと比べて、知的障害を持った子どもはわずかに新規突然変異が多かったことがわかりました。

「知的障害を持つ子どもは、深刻な結果をもたらす偶発的な突然変異が多い」とRauchさんは語りました。新規突然変異は知的障害と関係する11の遺伝子で見られ、障害を引き起こす可能性のある6つの変異も被験者の55%に見られました。

今回の研究が発表される前は遺伝が知的障害の主要原因だと考えられていたのですが、この結果は親から子どもに不完全な突然変異の遺伝子が受け継がれるというケースは少数であることを示していると考えられます。


元論文のタイトルは、”Range of genetic mutations associated with severe non-syndromic sporadic intellectual disability: an exome sequencing study”です(論文をみる)。

関連記事で紹介してきたように、代表的な精神神経系の疾患である統合失調症と自閉症スペクトラム障害は、本論文で調べられたIQが極度に低下している知的障害と同様、親からの遺伝によるものではなく、大半がde novo突然変異により発祥したという報告が蓄積しています。

本論文で調べられた重度の知的障害で、再現性をもって変異が認められたのは、STXBP1、SYNGAP1、SCN2Aという3つの遺伝子です。

STXBP1遺伝子は、神経細胞におけるシナプス小胞の開口放出に重要な役割を果たすことが知られているMUNC18-1タンパク質をコードし、難治性てんかん性脳症の原因遺伝子の1つであることが明らかにされています(論文をみる)。

SCN2Aは、電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニット2型(sodium channel, voltage-gated, type II, alpha subunit)をコードする遺伝子で、この遺伝子も重篤な知能障害を伴う難治性てんかんを持つ患者さんにおいて、そのナンセンス変異が報告されています(論文をみる)。

SYNGAP1は、”SYNGAP1 synaptic Ras GTPase activating protein 1″とよばれるRas GAPをコードする遺伝子で、これまでも常染色体優性遺伝を示す知的障害の原因遺伝子として知られています(説明をみる)。

これらの事実は、これらの重篤な精神神経疾患について、「親から遺伝した」という非難が根拠のない理不尽なものであることを強く示しています。

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