第一三共 抗血小板薬プラスグレル PCI-ACSで13年度に国内申請へ

第一三共 抗血小板薬プラスグレル PCI-ACSで13年度に国内申請へ
以下は、記事の抜粋です。


第一三共は9月21日、抗血小板薬プラスグレル(一般名)の国内フェーズ3試験で「所期の目的を達成する成績が得られた」として、2013年度中に日本で承認申請する予定と発表した。

経皮的冠動脈形成術(PCI)を受ける急性冠症候群(ACS)患者を対象に、アスピリン併用時のプラスグレルとクロピドグレルで有効性と安全性を評価したところ、主要評価項目の▽心血管死▽非致死性心筋梗塞▽非致死性虚血性脳卒中――の発現に関して、所期の目的を達成したという。

このPRASFIT-ACS試験では、07年11月に試験結果が公表された大規模なグローバルP3試験「TRITON TIMI-38試験」で得られた有効性評価と、同様の傾向が得られるかどうかを検証した。

TIMI-38試験はPCIを受けたACS患者を対象にプラスグレルとクロピドグレルを直接比較したもので、プラスグレル群が重篤な心血管イベント発生リスクを統計学的有意差をもって19%減少させたものの、重度出血例も有意に多かった。

同社は、「所期の目的を達成」との解釈について、「TIMI-38試験での有効性評価と同様の傾向が得られたということ」と説明している。PRASFIT-ACS試験での安全性評価については、「クロピドグレル群に比べて同程度だった」としている。

なお、プラスグレルをめぐっては今年8月、PCIなどの血行再建術を予定していないACS患者を対象に、アスピリン併用時のプラスグレルとクロピドグレルを比較したグローバルP3試験「TRILOGY ACS試験」で、有効性に関して両群間に有意差が認められなかったとの結果が出ている。


プラスグレル(prasugrel)は、第一三共と宇部興産株式会社が発見し、第一三共とイーライリリーが共同開発している経口抗血小板剤です。
プラスグレルは、アトルバスタチン(リピトール®)に次いで世界で2番目に売れているクロピドクレル(プラビックス®)と類似の構造を持つチエノピリジン系薬物です。

心筋梗塞や脳梗塞などでは、血管の中で血栓ができることが引き金になります。血栓形成には、血小板が周囲からの刺激に反応して凝集し、その中身を放出することが重要です。血小板から放出されるADPは、血小板の細胞膜にあるP2Y12受容体を介してさらなる血小板凝集をひき起こします。プラスグレルやクロピドクレルは、ADPのP2Y12受容体への結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制します。

これらのチエノピリジン系薬物が作用するためには、代謝されて活性型に変換される必要があります。プラスグレルはクロピドクレルよりも活性代謝物への変換効率が高く、ADP受容体への阻害と虚血性イベントの抑制が強力だとされています。

さらに、クロピドクレルの効果はCYP2C19の遺伝子多型によって影響を受ける(これは誤りでパラオキソナーゼ-1(PON1)が重要であることが最近明らかになった)が、プラスグレルの効果にはCYP2C19の遺伝子多型は影響しないとされていました。

しかし、大規模な臨床試験を行ったところ、記事に書かれているように、プラスグレルの方が有効性が高かったけれども、出血による有害事象が増えたとか、クロピドクレルと有効性は変わらなかったというような、あまりパッとしない結果が報告されています。

また、どちらもプロドラッグですので、即効性を欠くために緊急PCIなどには適さず、不可逆的な受容体阻害のために血症版機能の回復に時間がかかるという問題点も共通していると思われます。

上のカッコ内や下の関連記事2と3に書いたように、クロピドクレルによる臨床効果の主要な決定因子は、CYP2C19ではなくパラオキソナーゼ-1(PON1)であることが最近明らかになりました。プラスグレルとPON1の関係はどうなのでしょう?

関連記事1と4で書いたように、もう一つのP2Y12受容体阻害薬チカグレロルは、プロドラッグではなく、投与した薬物がそのままの形で受容体に作用するため、投与後30分以内で抗血小板効果が得られます。また、受容体への結合が可逆的なため、中断後2-3日で血小板機能が回復するそうです。実際、プラスグレルよりも有意に高い抗血小板凝集抑制作用示すという報告もあります。

プラスグレルは、わが国で発見された薬ですので頑張って欲しいと思いますが、ブロックバスターになるのは難しいような気がします。

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